2-10 迷宮入口
「うーん……」
試作中の魔道具をにらみつけながら、私は思わず唸った。
取り組んでるのは、フリオから依頼された貴族向けの護身魔道具。おおよその設計も終わって実際に試作してみてるんだけど、どうにも上手くいかないのよね。
「作動はするんだけどねぇ……」
試用した後の魔道具を指先で軽く押すと、焦げ臭い匂いを上げてパキンと割れた。
小型化はできたけど思ってた威力が出ないし、非常に脆い。コードも弄りまくってるんだけど、防御魔法を指一本分サイズの素材に載せようとすると、威力が心許なさすぎるうえに、魔法の負荷に耐えられなくて、今みたいに指で押しただけで壊れてちゃうし。
「どうッスか?」
「ダメね。やっぱ、素材そのもののレベルをあげるしかないか……」
エリーに答えながら、机の上に散らばったメモに埋もれた魔物素材ハンドブックを開く。防御魔法・強化魔法と相性が良くって、かつ魔力の伝導率が良い素材ってなると――
「メタルアントの外皮、かしら」
メタルアントは文字通り金属質の外皮をまとった迷宮だとありふれた蟻型のモンスターなんだけど、食べてる鉱物で硬さが全然違うのよね。
「この魔道具に使えそうな迷宮の深さは――」
「五、六階層ってとこスか?」
お、正解。だいぶ迷宮の情報と魔道具材料が紐づいてきたじゃない。そう褒めてあげると、エリーが気恥ずかしそうに笑って鼻の下を掻いた。
「だけどその階層のメタルアントの外皮って流通量が少ないのよねぇ……」
そこまで来ると必要な資格はB~C級レベル。このレベルならもっと高価で需要の大きい素材があるから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。
「なら自分らで直接狩りに行くしかないッスね」
ま、それが一番確実ね。幸いまだ午前中。今から迷宮に潜れば、急げば夜には帰って来られるかしらね。
エリーと揃って手早く着替え、予めユフィが準備してくれてた迷宮探索用のアイテム一式を圧縮カバンに入れる。ありがたやありがたや。ユフィにはホント、足向けて寝れないわ。
「ユフィ!」
「はい、どうしました、お嬢様……あ、素材集めですか?」
「そ。帰ってくるのは今日の夜か、状況によっては明日の朝になるかも。だから戸締まりをしっかりお願いね」
「はい、承知しております」
「有事の際は、ウチにある悪漢撃退用の魔道具を遠慮なく使っちゃっていいから」
魔道具はまた作れても、ユフィに何かあったら取り返しがつかないからね。
最悪、店ぶっ壊しちゃってもいいから。そう言い添えるとユフィは苦笑いしながら私たちを見送ってくれた。
迷宮に向かった私たちだけど、ただ潜るだけなのももったいない。なので試作予算の確保を兼ねて達成できそうな依頼を探しに、一旦ギルドに立ち寄った。
ちょうど受付にカタリナさんがいたので相談すると、お誂え向きに五、六階層に生息するフレイムフォックスの皮収集の依頼があるとのこと。こいつならメタルアントの外皮と混ぜると素材を強化できるかも。ってことで、依頼を受注してから迷宮へと向かう。
「いつ来てもここは大賑わいッスねぇ」
「稼ぎどころだからね」
たどり着いた迷宮の入口付近を眺めて、エリーが感嘆した。
行商人の枯れた声。剣を叩く金槌の音が、研磨用魔法薬の匂いと一緒に届いてくる。それだけでここが、大商会から小さな工房まで含めて絶好の商い場だって分かろうもの。
そのうえ出店許可も要らないおかげで、たまに掘り出し物の魔道具が転がってるんだから侮れない。それを目当てに商品を眺めつつ歩いてると、見知った顔を見かけた。
「こんにちは、フリオ。商売は順調かしら?」
「ええ、おかげさまで。今月も良い結果を報告できそうです。ミレイユさんとエリーさんは素材集めですか?」
「ええ。メタルアントの外皮を集めに、ね。五、六階層あたりのものを護身魔道具に試してみようかと思ってるんだけど、原価的に大丈夫そう?」
「なるほど、メタルアントですか。そうですね……それくらいであれば問題ないレベルかと思います」
そう、なら良かったわ。貴族向けだから大丈夫だろうとは思ってたけど、相場どおりだとちょっと値が張るから多少心配してたのよね。
その後も二、三やり取りしてからフリオと別れて迷宮入口へ向かおうとしたんだけど、そこで呼び止められた。ん? どうしたの?
「いえ、ちょっとお客さんから気になる話を聞いたものですから」
気になる話? 何かしら?
「迷宮のモンスターについては門外漢なんですが……ブラッドウルフに三階層で遭遇したってそのお客さんは言ってました。これってあり得ることなんですか?」
ブラッドウルフは通常は第四、五階層にいる血のような赤い毛並みのモンスターだ。
迷宮内のモンスターが出現する階層はほぼ決まってて、けど環境適応性の高いモンスターだと生息域が変わることもあるって聞いたことはあるわね。ただかなり稀なケースみたいだけど。
「それって本当にブラッドウルフだったのかしら? 似たモンスターじゃなくて?」
「ええ。素材を少し見せてもらいましたが、ブラッドウルフの毛皮でしたね」
「そう……でも、出現エリアから一階層上なだけだし、たまたまそういう個体がいてもおかしくないかもしれないわね」
「ひょっとすると、何かしらの予兆かとも思いましたが……私の杞憂でしょうね。探索前に失礼しました」
「いいえ、貴重な情報感謝するわ」
もしその話が本当なら、ギルドに報告が必要ね。ブラッドウルフは何かと素材として扱いやすいモンスターだし、今回はターゲットじゃないけど情報は常にアップデートしとかなきゃ。
「さ、気を引き締めていきましょ」
「りょーかいッス!」
エリーがおどけて敬礼しながらも、一度パチンと頬を叩いて気合を入れ、私も大きく息を吸い込んで気持ちを切り替えて入口を見上げる。
見慣れた入口が、まるで入り込んだ者を外に逃さない悪魔の口みたいに見えてきた。
(フリオの話を聞いたからかしらね)
馬鹿げた妄想ね。軽く頭を振って考えを振り払い、私たちは迷宮の中に脚を踏み入れた。
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