【完結】寝取られ動画でガッツポーズした俺、壊れかけた清楚な本命を純愛で救うと決めた――演技のデートのつもりだったのに、いつの間にかラブコメ始まってたんだが?
第17話 “惚れたら負け”の典型でも、俺は負けてもいいと思ってる
第17話 “惚れたら負け”の典型でも、俺は負けてもいいと思ってる
“利用していた“。
その言葉が頭の中で反芻し、胸がざらついた。
……本当に、そうだったのか?
だけど、すぐに首を振った。
(ちがう……詩乃は、美咲とは――)
かつて俺を裏切った元カノとは違う。
あの微笑みは、あの声は――
演技なんかじゃない。
詩乃は、演じていたんじゃない。
演じているんだ。
詩乃の顔は怖がってるだけじゃない。
虚言を吐く事に耐えてるような顔だ。
そう信じたい。
あんな顔を演技で作れるなら、逆に大女優だわ。
……だったら俺は、信じる方を選ぶ。
……あーあ。
ガチで惚れたら負けの典型じゃん、これ。
近くで交わされる二人の声が、俺の思考を引き戻す。
「どうしても今はあの人が必要なんです。
その為に、直哉さんを利用してるだけです。
だから、神崎さんと深い関係になるのは、もう少しだけ待ってください」
詩乃は神崎を見ながら、そう言った。
「もう少し待て、ねぇ……。
それで、あいつを利用してる訳って何かな?」
神崎の声は低く、穏やかに聞こえるのに、耳の奥を刺すような圧があった。
詩乃の肩が、ほんの一瞬だけ怯えたように震える。
「妹が――
私が神崎さんと会ってるのを、良くないと思ってるんです」
その声は小さく、弱々しい。
「それは知ってるよ。
柚葉は随分俺の周りを嗅ぎまわってるからな。
助けてあげたっていうのに、信頼してもらえないとは――迷惑な話だ」
吐き捨てるような声。
その一言だけで、この場の空気が凍りつくようだ。
“詩乃の妹だから許している“、俺にはそう取れた。
「でも柚葉は、私が直哉さんの話をすると、安心するんです。
私が動画の件で謝罪に行った時、唯一良くしてくれたのが、
直哉さんだって説明してから、そう思うようになったみたいで――」
詩乃の手がスカートの裾をぎゅっと握る。
「だから今は、直哉さんといる時間を作って、柚葉を安心させたいんです。
直哉さんはその為だけに利用してるんです。
だから、少しだけ時間が欲しいんです」
神崎は詩乃をじっと見据えた。
その目はまるで、“俺以外の男を立てる理由を、聞いてやる“と言わんばかりだった。
「……妹は説得できるんだろうな?」
ゆっくりとした口調なのに、刃を押し当てられるような重さがある。
「はい。だから……一か月だけ、待ってください。
柚葉がちゃんと神崎さんのこと信じてくれるように説得しますから。
その時が来たら、もう直哉さんと一緒にいる必要はなくなるので」
長い沈黙が落ちる。
神崎は詩乃を見据えたまま、ゆっくりと笑った。だがその笑みは氷のように冷たい。
「なるほどねえ……。
じゃあ、一か月だけ猶予をあげるよ」
その声は、柔らかい響きの裏に冷たさを孕んでいた。
「でもな、勘違いしないでくれ。
これは詩乃を信じて待つ時間じゃない。
俺が、余計な邪魔を完全に消す準備を整える時間だ。
――邪魔を消すって、やり方間違えると面倒だからな……。
しっかり根回しするための一か月だ」
詩乃の呼吸が止まる。
「一か月後、柚葉も説得できず、あの男ともまだ繋がってたら……。
柚葉にも篠宮にも、二度と詩乃の心配なんて出来ないようにしてあげるよ。
詩乃も、誰を頼るべきか身体に刻めば分かってくれるだろう?」
笑っているのに、目は一切笑っていない。
獲物を逃がす前に、首筋に牙を当てて警告している獣のような目だった。
「はい」
詩乃は息を詰め、力なく頷いた。
震える指先がスカートを掴み、白くなっていく。
神崎は詩乃の横を通りざま、手首を一瞬だけ強く掴んだ。
「一か月後――柚葉と篠宮の為にも、俺を選んでくれるよな」
詩乃にだけ聞こえるくらいの声量なのに、俺の鼓膜まで突き刺さる。
それは選択肢なんかじゃない。
俺と柚葉を人質に取ったって、はっきり分からせるための言い方だった。
「……はい」
「いい子だ」
ようやく手が離れる。だが、その指の跡が消えたあとも、詩乃の震えは止まらなかった。
そして、神崎の背は消えていった。
――30日間の執行猶予。
その間は自由にしてやる。
けど、期限を越えたら――
詩乃が誰といようが、どこにいようが、全部、俺の所有物として回収する。
そんな風に聞こえた。
一か月後、俺と柚葉がどうなるのか……。
神崎の、根回しするという言葉が頭にこびりついて離れない。
俺と柚葉をどんな目に遭う準備を?
想像すればするほど、背中を冷たい汗が伝った。
あいつの『待つ』は、処刑するための下準備だ。
俺は神崎が完全にいなくなったか、注意深く見てから詩乃へ近づいた。
彼女は、小さく、でも確かに言った。
「私って、サイテ――」
「最低って言うなよ、詩乃。
最低って自己申告するやつに限って、だいたい最低じゃないんだよ。
経験者は語る、な?」
詩乃が、驚いたように振り返る。
目が合った瞬間、その表情に色々なものが混ざっていた。
驚き、戸惑い、罪悪感――そして、どこか、安堵のような。
「俺のこと利用してましたって顔で、あんなブルブル震えるやつ見たことねぇわ。
ついでに言うと、涙目の時点でアウト。
詩乃の反則負けです、はい」
俺は、静かに歩み寄って、彼女へ告げる。
「……ぁ…」
詩乃は今にも泣きそうな、悲痛な表情で俺を見ていた。
でも、今はなにも聞かなくていい。
涙で語られるより、今は俺のバカさで黙って抱きしめてやる時間だろ。
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