薄っぺらいけど愛してる

松井広

薄っぺらいかもだけど君が好きって話



「えっと、なんかあんま他の作品だと見ない主人公というか、かっこよくて好きで」


「…そーなんだ。私その作品詳しくないから今度見てみるね」


語彙乏しっ。

喫茶店デート中、彼との会話の中で私の頭にはその言葉がパッと浮かんでしまった。

いや私も語彙無いけどさ、でもさすがに皆無すぎないか?

まあそんなとこもかわいいくって、頑張って言語化しようとしているからいいんだけど。

かわいい、好き。顔はかっこいいだけど

飯島くん。

私がずーっとずっと好きな人。

小中と同じ学校で、高校も同じとこに進学することになって、同じ中学からは私と彼しか進学しなかったから、チャンスだと思って即話しかけて4回くらいデートしてして仲良くなった。

小学校の頃はよく遊んでたけど、中学からはお互い関わらなくなったというか、透和くんは陽キャで私は陰キャだったから。話しかけると気まずそうにされて、疎遠気味になっていた。


「飯島くんはバトル系のアニメ好きなんだね」


「うん。面白いから」


彼は笑顔でそう言ってクリームソーダを飲む。私もアイスコーヒーを飲んだ。ストローを口から離すと、スプーンを持ってアイスクリームをすくって食べた。ストローには噛み跡ひとつなかった。

昔から思ってたけど、本当に育ちいいんだな…。

私もストローを口から離した。

私のストローには、ちょっと噛み跡がついている。


「黒井さんはどんなアニメが好きなの?」


「んー、日常系って言ったらいいのかな?そーいうのが結構すきなの」


「あんま見ないなそーいうの。見てみよーかな」


「ほんと?やったー、おすすめなのは𓏸𓏸って作品でね。日常に潜む、これって何?なんでこうなったんだろーって謎について考える…青春ミステリーと言ったらいいのかな」


「おもしろそう。

ネトフリで見れるなら見ようかな」


飯島くんはにこっと微笑んでくれた。

刺された。ときめきの過剰摂取で胸が痛い。

好き。こんな早口オタク喋りに微笑んでくれて。それにお世辞かもだけど見てみる言ってくれるとかさ、てか笑顔可愛いすきすき優しい好きです好き。

友達にたまに言われる。

肌荒れてるとか語彙力乏しいとか言っちゃってるけど、ほんとに飯島くんのことが好きなのか?って

ちっちっち、

そういう部分も含めて好きなんだよ。

人間として好き。私みたいなただのオタクなんかのために頑張って喋る君が好き。顔が好き。声が、体が、背中が、夢に向かって努力する姿が。

優しい君のことが大大大好き。ついて行きたいんだ。

薄っぺらいけど、愛してるんだよな。愛してる。

飯島くんが言ってたアニメと映画、全部履修しよ。

私はスマホでアマプラを開いて、片っ端からウォッチリストに作品を入れ始めた。

イヤミス、サイコホラー、サスペンス作品盛り盛りのウォッチリストに王道作品が侵食していく。

こんなのも悪くないな


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