第15話 再再会
その日は、ガラス越しで眠っている法子を見て、医師から状況の説明を聞く事になった。ICUの前でぼーっとしている和也に後ろから、男性の声がした。振り返ると、40代半ばくらいの医師が立っていた。
「清水さんでよろしかったですか?」と問われ「はい」とだけ答えた。
「どうぞこちらに」と促され、さきほど通されていたカウンセリングルームに行った。「この度は、大変だったですね」と低く抑えた声で医師は気遣いを見せてくれたが、僕はこの数日で何年もの時間が一気に過ぎて、すごく歳を取ってしまった様な感覚でいたので、反応が出来なかった。少し間を置いてその医師が口を開き「実は法子さんは以前、乳がんで入院されていましたよね?そこの担当医は僕の先輩で、昨日、連絡をくれました。一時退院の最中の事故ということで、あちらの病院もいろいろ混乱している様ですが、現状はあちらの医師とも情報を共有していますので、ご安心ください。そして、今回の交通事故による状態ですが、奇跡的に大きな怪我はしておりません。乗車していた位置が、運転席の後ろの席で、お兄様が守ってくれた形になったのかなと考えます。現在は大事をとってICUに入って頂いておりますが、一週間程度で一般病棟に移れると考えます。本人の意識もありますし、此方からの呼び掛けにも反応されています。問題は、その後の精神的なケアが重要になってくると思われます。」そう言って医師は言葉を切った。「なにぶん、ご自身の病気からの続きで交通事故、合わせてご家族を亡くされた悲しみや、精神的なショックは計り知れません。病院側でもカウンセラーやケアマネージャー等と連携をし、最善の体制で参りますので、ご安心ください。」
「検査の結果ですが、CT、MRI、血液検査、心電図など検査は全て問題なく、外傷はシートベルトによるすり傷が見受けられる程度で、至って問題ありません。合わせて、乳がんの経緯も、あちらの病院からのカルテ情報を
「いつ、いつ法子に会えますか?」と聞くと「はい、本来はまだ時期尚早という感じもありますが、精神的な支えで有る婚約者の方が側にいられる事が、患者様にとって望ましいだろうと今朝のカンファレンスで決まりましたので、今日、これから着替えて頂いてお会いして頂けます。看護師がお手伝いをさせて頂きますので、よろしくお願いします。」そう言って医師は立ち上がり、僕の後ろで控えていた看護師の立花さんに「あとをお願いします。」そう告げて部屋をでて行った。
そして、白衣に着替えを済ませ、立花看護師が僕をICUの中に連れて行ってくれた。
そのドアを
それから何分くらい其処に居たのだろうか、と感じるくらい時間は止まっていて、実感がつかめなかった。看護師が「そろそろ・・・」と言いながら入ってきた時、気配を感じたのか、法子が目を開けた。思わず僕は「法子」と言ってそばに近づいた。彼女はゆっくりと僕の方を向き、微かに微笑んだ。マスク越しに唇が動くのが判り「和也」と言っている様に思えた。ベットの脇に座り、かけ布団の下から法子が出した手をしっかり握った。その手は意外にも暖かく『ああ、大丈夫。大丈夫なんだ』と思いながら手を握りしめた。この時は、静かに号泣して、法子の顔がよく見れなかった。「大丈夫、すぐにここから出て、一般病棟に移れるらしいから、安心して。」そう言うと、法子が握った手に微かに力を入れたのがわかった。
看護師に促されて部屋を出る際、振り返り「またすぐに会いにくるから」そう言って退室した。
人生は色々なことが起きる。それは得てして、人智の及ぶ所ではなく、まるで何かに導かれる様に進んでいく。人生はまるでロールプレイングゲームで、外側から俯瞰するとスクリーンの枠のような中かを、皆必死で生きている。それぞれの人生に一喜一憂して、苦難を乗り越え、歳を重ねていく。そして、我が身でさえ自身で動かすことが困難になる。
星屑のカケラ 神田川 散歩 @nightbirds60
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