第10話

 **天空庭球場ヘブンズ・コート**。

 それは、超富裕層と地下ギャンブル組織が資金を出し合い、成層圏近くに浮かぶ飛行式コロニーに建てられた、“人類最後のギャンブル競技場”。


 観客席には、各国の権力者、戦争屋、そして世界最大の賭博AI《ベツナール》が揃っていた。

 すべてはこの試合のために。


---


## 対戦カード


### 水城タイジ vs 比嘉錬司


### 試合形式:**審判無用式デス・マッチ**


* ポイント制ではなく、**相手の精神・肉体・戦術、いずれかが完全に破綻した時点で決着**。

* 試合中、**観客が“追加ルール”を課す権利を持つ**。

* そして――**賭けられたのは「未来」**。


> 「勝者は全財産と自由、敗者は“存在権”を奪われ、記録から消される」


---


## 登場人物:比嘉錬司(ひが・れんじ)


 真紅のウェアに身を包み、金色のガットを張った特注ラケットを持つ男。

 元・U-18日本代表エース。

 ジュニア時代、タイジのダブルスパートナーだったが、**金と暴力の才能に魅入られ、道を違えた天才**。


 ミナを道具として洗脳し、タイジを賭博の世界に引きずり込んだ張本人。


「来いよ、タイジ。

 このコートの上では、正義も情熱も――全部、金で買える」


---


## 試合開始:天空にて


 無重力に近いこのコートでは、球の軌道も、足の動きも、すべてが変わる。

 跳ねない。走れない。

 **“思考の速度”と“呼吸の間”だけが武器になる場所。**


 開始直後、比嘉のサーブが放たれる。


 球速――およそ320km/h。


 だがそれは、**重力補助装置で“加速された球”**。


 タイジはそれを読み切り、わずかに右足をずらして構える。


 「……ここが、てめぇの“特注世界”かよ」


 無重力でのステップ。

 タイジはまるで**空を滑るように**打ち返した。


---


## 第1セット:戦術の攻防


 比嘉の武器は、「状況演出」。

 ポイントが進むたびに、AI《ベツナール》を通じて観客に“演出要求”を出す。


 ・照明変更(視界を奪う)

 ・床の一部を氷床に(滑らせる)

 ・微量の酸素低下(判断力低下)

 ・タイジのスパイクに電磁波ノイズ(感覚を鈍らせる)


 **比嘉は試合そのものを“演出”する支配者。**


「どうした? テニスだけが勝負じゃねえ。世界ごと、設計してやるよ」


 タイジは、静かにラケットを握り直す。


 「……じゃあその世界ごと、“ぶっ壊す”しかねぇな」


---


## 第2セット:心火の反撃


 タイジは技で応じた。


 ・視界制限 → 「音」で球筋を読む

 ・足場滑り → 「軸足の感覚」で踏み込み調整

 ・空気の薄さ → 「呼吸のリズム」を刻む打撃


 **そして何より――ミナの言葉を思い出していた。**


> 「タイジの球はね、世界が止まって見えるくらい、美しいんだよ」


 タイジの放った“無拍”ドライブが、観客席に衝撃を走らせる。

 比嘉が一瞬、表情を歪めた。


---


## クライマックス:審判なき最終戦


 互いに精神の限界。

 そして、ベツナールが突如、観客からの“最終要求”を読み上げた。


 > 「最終決戦条件:**勝者は相手の“真実”を知る**」

 > 「試合後、自身の記憶に関する“隠された真相”が開示される」


 タイジの脳裏に、幼少期の幻がよぎる。


 (……真実? ミナを裏切ったのは、本当に比嘉だけだったのか……?)


---


## 最終球


 比嘉が最後のサーブを打つ。

 それは、**かつてタイジとともに磨いた“必殺サーブ”**。


 「これで終わりだ、水城ァ!!」


 だが、タイジは――泣いていた。


「お前がその技を使うってことは……まだ、俺たちのあの時間を捨ててなかったんだな……」


 タイジが跳ぶ。

 涙を超えたその一撃は、**“心打・改”――魂を焼き尽くす渾身の一球**。


 コートを貫き、比嘉のラケットを吹き飛ばす。


 **試合終了。勝者、水城タイジ。**


---


## 試合後:記憶の開示


 ベツナールがタイジに“真実”を流し込む。


 ──数年前の映像。

 ──試合中、ミナが倒れたその裏で、**ある人物が薬物を混入していた**。


 ──それは、**タイジの父親**。

 政治家であり、金と圧力で「勝利」を買っていた男だった。


 「ミナを壊したのは、俺の“血”だった……?」


 比嘉が倒れながら言った。


 「……お前と、俺は……最初から、仕組まれてたんだよ……」


---


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る