第六話:視線と試着室
駅前の商店街を抜けて、ふたりは小さなセレクトショップに入った。可愛い系のカジュアル服が並ぶ、地元でもわりと有名な店。
「見て見て、このブラウス、さっきのと似てる……けど、リボンついてる」
ハンガーにかかる服を指でつまみながら、まひるは空に振り向く。
「空、こっちのほうが、えっち?」
「ぶっ!」
空は思わずむせた。となりで洋服を見ていた店員が、ちらっとこちらを見たような気がした。
「ま、まひる! それ店の中で言うことじゃ──!」
「でも空、今朝、そんな目で見てたじゃん」
まひるは無邪気そうな顔で言いながら、ハンガーを揺らす。空は顔を両手で覆いそうになるのをぎりぎりでこらえた。
──ずるい。可愛いのに、攻めてくる。
「……あのね、まひる。わたし、ほんとに混乱してたんだから……」
「知ってる」
にやっと笑って、まひるは鏡にブラウスをあててみせた。
「ちょっと試着してみようかな。……空、外で待ってて?」
そう言い残して、まひるは試着室へ入っていった。
空はベンチに座って、足をぶらぶらさせながら待つ。店内のBGMがやけに耳に残る。
(さっきのリップ……また塗ってる。試着室で着替えてる今とか、どういう顔して待てばいいの……)
意識するなって言う方が無理だった。
──カーテンが、そっと開いた。
「……どう?」
まひるが姿を見せた。リボンのついた、ちょっと大人っぽいブラウス。袖はふわっとしていて、さっきよりも少し透け感がある。下には白のフレアスカート。
空の心臓が、音を立てて跳ねた。
「……かわ……」
声が詰まる。
まひるは少し首をかしげて、小さな声で尋ねる。
「ん? なに?」
「……っ、か、かわいい!!」
思い切って口に出したその瞬間、まひるが驚いたように目を瞬かせ──そして、にっこりと笑った。
「ありがと」
満面の、嬉しそうな笑顔だった。
空の胸の奥が、きゅうっと鳴った。
これは、たぶん、そういう気持ちなんだと思った。
まだ名前はよくわからないけれど──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます