第46話 ドストエフスキー2

信じてくれないばかりではない。もし万が一、信じてくれる人がいたとしても、

きっと妬まれるのがオチだ。普段無口な彼が

『喋りたい、いいふらしたい』

静かにそっと一人っきりではしゃいだ。心の中で、大声で叫んでいた。


この事実がわかったことで、彼の現世と、過去世が直接繋(つな)がった。

坂本某氏によると、龍の魂は、80回生まれかわっているという。同じ魂が変遷(せん)してきているうちで、直近過去世のドストエフスキーと、現世の龍との二人分の人生が直接繋がった。


魂の成長が倍速で伸びると、期待がふくらむ。ドストエフスキーは

『全人類が争わない世界がくるように』

と願っていた。被害者の立場の人間を書いてきた。


『成長を遂(と)げた現世の人々の魂は、すべてのモノが調和したとき、最終的には

キリスト教の説く三位一体のように、個々の人や物はそこに融け合わされていく』

と考えていた。作中人物の中に自らの姿を見ると、トルストイも共感している。


龍も翻訳されている作品は、全集でほとんど読んでいる。自分の過去世だったからだ。資料を調べてみると、彼のほぼすべてプライバシーまで、さらけ出されている。

作品の内容ばかりではない。思想や、家庭環境まで明かにされていた。


博打好きで、いつもお金に困っていて、出版会社への借金で生活していたなどとばらされている。彼がくしゃみをしたことまで書かれているような気がして、龍はゾッとした。自分が丸裸で晒(さら)し者にされているような不快感があった。


文豪として有名だったから、現世の龍が、過去世のドストエフスキーの人生と、苦悩を知ることができた。知られたくないことまで公にされて、少々し気の毒である。

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