第13話 小学校跡
それからみんなで小学校跡にいった。
廃校とはいっても、今は公民館として活用されている。
土日祭日だけだけれど、和紙体験教室もしていて、地域の中心になっていた。
蔓(かずら)細工の展示会場になっている。
車はこの公民館の駐車場であずかってもらう。
狭い校庭が切れた端に一級河川の源流があった。
みんなで河原におりた。流れがゆるやかに蛇行し、深く澱(よど)んでいる。
野趣(やしゅ)味のある天然のプールになっていた。夏は子供たちの格好の遊び場である。今は春だから誰もいない。エメラルドグリーンに透きとおった、美しい水をたたえている。
大きな一枚岩に豆蔦(つた)がしがみつくように張りついている。
崖の上から太い枝がのび、ブランコと、ロープが取りつけられていた。
「ここは深いんよ、子どものとき、よくここで泳いだの」
由紀が懐かしそうにいう。
「夏がきたら泳ぎにきたいね」
孝が応(こた)えた。
「またみんなできてみようか」
龍がすぐに賛成する。
天然プールを離れる。馬背ブルーの川面を合鴨の夫婦連れが泳ぎながらついてくる。
「えらい人になついとる」
「飼われとるんかな」
「あれは家鴨(あひる)じゃないんか」
「どっちじゃろ」
川ぞいをあるく。突然由紀がミツマタの枝を折り、皮を引きむいた。
イチジクの香りが立ち上がってきた。
「この皮はお札の材料になるんょ」
由紀がいう。みんなにミツマタの臭いをかがせる。
「イチジクみたいな匂いがする。嗅いでみて」
といって啓が純にミツマタの枝を寄こした。
「本当じゃ。イチジクみたいじゃ」
純は
『イチジクの木の皮も紙になるんかな』
などと考えた。
蔓の橋を渡る。
「これが雪のした」
「あァこれなら家にもある」
孝が即答した。
「家にもあるよ」
純も答える。
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