第6話 雷 2

この一部始終をみていた純は、顔に雨粒のしぶきがかかっていることも忘れて、

自転車がみえなくなるまで老人の無事をみ届けつづけた。


『今ぼくは雷の手が及ばない家の中にいて、この一連のできごとを一人の見物人としてみていた』

はじめて雷の恐ろしさを全身で体験した。落雷のすごさを知った。


『雷は地面に吸いこまれ、地面に溶けていった。大きな火の塊は30cm以上あった。あれは電気の球だ。雷は静電気だった。なん万ボルトあるんだろ。

雲の中にいったいどうやって静電気をためておくことができるんだ。


あんなにものすごい直撃なん受けていいたらひとたまりもない。あの人はなにごともなく無事だった。それなのにぼくはこんなに衝撃を受けている。

もし目の前で、あの人が雷の直撃を受けて死んでいたとしたら』


純は想像しただけでゾッとした。立直れなかったかもしれない。

きっとショックで深く傷ついたと思う。ということはあの人だけじゃない。

純と二人助かった。


『あの人を助けるためだったら、わざわざぼくに目撃させることはなかった』

はずだ。

人の命のはかなさを悟れということなのだろうか』

きっとそんな甘いことではない。


『生と死の境は、なにを基準にどうやってわかれるのだろう。

あのお爺さんのように無事家族のもとへ帰った人と、

雷の直撃を受けて死んでしまったかもしれない人との差はいったいなんだろう』


運が良いだとか、悪いだとかの適当な基準できまるとも思えない。

『第一運が良いとはなんで、悪いとはなんなのだろう』

そしてそれを

『決めるのは誰なんだろう』


運命だとしたら、自分ではどうすることもできない。

『人間の常識をこえた、なにかの価値基準がきっとある』


《事故でけがをする人》《死んでしまう人》《無傷でいられる人》

《事故にさえあわない人》

この運命といわれている運の差はどこできまるのだろう。

生と死の境を隔てるモノはなんだろう。


窓をしめ、濡れた顔をタオルで拭きながら、ふと

『もうすぐ受験がはじまる』

まったく関係のないことが浮かんできた。


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