第10話 ウェイ
「流石キュア、逃げ足は精霊一だな。」
デフォルメされた狸の姿をした精霊のウェイがそう呟くと、相棒の仇に目を向けた。
「ギャハ!玩具はいなくなっちまったけど、珍しいのと遊べそうダ。」
「フゥー……………アイアン、いやバーサークデーモン。覚悟しろよ、これが………精霊の本気だ!」
ウェイの周囲を澄んだ激流が駆け巡り、幾重にも絡まるように変化していく。ピクリとも動かないフワリンキュートからも伸びているそれは、ウェイが本気を出すために集めているマナが可視化された物だった。
「…………………」
不遜な様子でウェイを見つめる悦に怒りを覚えたのか、ウェイはより一層顔をしかめたが、その顔もマナの奔流がウェイを完全に包み込んだことで見えなくなり、弾けた後には人影が浮かび上がった。
「完全解放、ウェイ・ズィブン。」
狸の形は完全に原型がなくなり、長髪ポニーテールの蒼い髪の男性がそこにいた。
「カーッ!そんなのありかヨ!」
態とらしく天を仰ぐ悦を一瞥したウェイは、そのまま雲で出来た細剣を構えて刺突した。
「おっト、殺意高すぎーw」
甘く見ていた悦だったが、本能的に危険だと察知したのか素早くバックステップで躱した。
「フン。アイアンの力を完全に掌握していないお前に、俺が負ける筈がない!」
ウェイは好機とばかりに深く深く細剣を突き出していく。
「ケヘ、よく回る口だなぁ!オラ!」
「な!?ガッ!」
ウェイの細剣を右足の蹴りで上空に放り出させた悦は、そのまま唖然としているウェイに掌底打ちを繰り出した。
「ヒヒヒ、ほらほらそんなモンかよ。」
「クソッ!」
仰向けに倒れたウェイを煽るようにせせら笑う悦にたいし、立ち上がり悔しげな表情でキッと睨み付ける。
「舐めるな!雷雨槍!嵐雪槍!」
今度は2本の槍を器用に回し、その穂先は空を切る事に雷雨、嵐雪其々のエネルギーが蓄積するようにその場に溜まっていく。
「へぇ?で?」
「行け!」
ウェイの声に呼応するように飛来する二つのエネルギーの塊に対して、悦は慌てることなくフィンガースナップをすると、エネルギーは霧散したように周囲を漂い、悦の身体に吸い込まれるように流れていった。
「っおぉぉ…………なかなか。」
「ば、かな………貴様は人の筈だろ?…………なぜマナを吸収できる?それは位が低い精霊のマナをそれより位の高い精霊が………」
「独り言はナンセンスダナァ!」
「グァッ!?」
ウェイがぶつぶつと呟いていた間に、悦が距離を詰めて豪快に左足で地面を蹴ると、右足に力をためながら一気にウェイのがら空きの腹にジャンプキックをお見舞いした。
きれいなくの字になったウェイは、そのまま後ろに飛んでいき、回転しながら地面に複数の穴を空けた。
「ギャハハハハッ!ハァー…………飽きたわ。」
悦が心底冷めた目で呟くと、右手にスナップハンスロック式のリボルバーを手に持っていた。
「災いが!調子に乗るなよ!何れ貴様を倒────」
「黙れよ。」
悦が口を開いたときには、既にウェイは沈黙していた。
そして、維持が出来なくなったのか、ウェイの身体はマナとなった霧散していった。
それを、奪い取るように悦が手を掲げ、マナは吸い寄せられるように悦の身体に付着していった。
「フゥー、アァ……………」
頭の後ろで腕を伸ばしながら欠伸をした悦は、鬱憤が晴れてスッキリした顔をしていた。
「ふあぁ、帰ろ。」
悦が空を割って転移した後、その場には痛々しい地面の穴と、未だ乾いていない血の海に横たわるフワリンキュートの身体だけだった。
しかし、政府の部隊による遺体回収班が現場に到着した時には、既にフワリンキュートの身体も血液もなく、あったのは季節外れの綿毛を付けたタンポポだった。
風に揺らいで飛んでいく綿毛を見た回収班は、言い様の無い喪失感に襲われたという記述が残っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます