第9話 フワリンキュート 2

 さっきの人大丈夫だと良いんですが………


「ぼさっとしない!」

「はいい!すみません!」


 いけないいけない!今私はイクリプスと戦ってるんだから!


 相対しているイクリプスは巨獣型、一番メジャーなイクリプスです。

 フワリンさんの授能は集団戦や応用が主なため、回復しか能がない私の存在も相まって、決定打に欠けています。

 なんとか救援まで維持できれば私達の………! 



 私がそう思っていたその瞬間、目の前のイクリプスが真二つに裂けた。

 何かの攻撃かと思って警戒していると、そのままイクリプスは倒れこみ、その間から一つの影が現れた。



「あ、あの顔は!」

「キュア、まだいける?」

「…はい!」


 話ではまだバーサークデーモンはうまく力を使えないはずです!なら、時間稼ぎぐらいは………


 私とフワリンさんの考えが一致し、臨戦態勢に入ろうとした時、バーサークデーモンからとてつもない圧を感じました。



「ウェイ君?」

「あぁ、お前も分かったかキュア。どうやら勘違いでは済まなそうだ。」


 突然、私とフワリンさんの宝石から精霊が顕現して何やら話し始めました。


「ほんとうに、あれは………?」

「そうとしか考えられない。」

「二人とも?」

「どうしたのですか?」


 私とフワリンさんが目を合わせて尋ねると、フワリンさんの精霊である狸のウェイさんが話し始めました。


「二人には、あれがどう見える?」

「え?」

「バーサークデーモンよ。」

「そう、ですかぁ………」

「そうか。

俺達には、あれが災いに見える。」

「災い?」

「バーサークデーモンは元々そんなものよ?」

「違う、俺達の故郷、精霊界とでも呼ぼうか。そこでイクリプスが暴れる前、アイアン族という精霊がいた。そいつらは唯一、精霊を殺す精霊であり、無差別に精霊を殺す存在だったんだ。

 …あの日、一匹残らず殲滅したはずなのに……!」

「まぁー簡単にいうと、精霊を付け狙う悪に…悪精霊?ということです~。」


 ウェイさんが思い詰めたように俯いた所でフォローするようにキュアちゃんが付け加えてくれました。


「つまり、バーサークデーモンの授能はそのアイアン?という精霊達の力ってことですか?」

「そうだな。バーサークデーモンにやられた魔法少女に付いていた精霊が連絡も寄越さずこちらに来なかった理由が判明したな。」

「アイアンの力で殺されていたから、ね。」

「そうですねぇ。」


 情報の摺合せをしていると、ついにバーサークデーモンの声が聞こえるぐらいにまで近い距離だった。



「ギャハハハハハッ!」


 ウェイさんが少し考えた後、突然フワリンさんの変身が解けた。


「!?何してるの!」

「あれは今までのバーサークデーモンとは違う。確実にアイアンの力が濃すぎる。なら、狙うのは精霊の筈………」


 私とキュアちゃん、そして胡散臭そうにフワリンさんが聞いていると、シャン、という鈴の音が聞こえた。


「?」


 私は不思議に思って後ろを振り向くも誰もいない。

 何が……っ!?



 私がそう思って顔の位置を戻すと、そこには地面を赤く染めて倒れているフワリンさんがいた。

 悲鳴もなく、音もなく、静かにその命脈を散らしていた。



「………え?」

「ば、かな…………貴様はアイアンではないのか!」

「逃げますよ。」


 私とウェイさんが動揺していると、キュアちゃんが冷静に一言告げて、既に準備されていたゲートで強制転移をさせられた。











「痛!」


 尻餅による衝撃に、手で擦りながら周囲を見るとオペレーションルームでした。


「キュアザワンダー!無事か!?」


 駆け寄ってきたのは司令官さんです。


「っ!フワリンさんが!フワリンさんが!」

「いや、いい。君が無事なだけでも十分だ。」

「そんな…………」

「キュアさん、英断お見事です。」

「当然のことです~。」


「フワリンさんはどうでもいいんですか!?目の前で、あんな!あんな…………」

「キュアザワンダー、慣れろとは言わない。だが、狼狽えてはいけない。ここは戦場なんだ。」

「っ………すみません、でした…………」

「一度休もう、皆、任せるよ。」



 司令官である杉田が告げた言葉、それはフワリンキュートの元精霊であるウェイとバーサークデーモンの戦いの顛末を見届けることである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る