第2話
「取り敢えずこんなもんか。他に痛いところは?」
カメラの男性は、私の前でしゃがみ込みながらそんな事を聞いてくれる。
「たぶん大丈夫です。ありがとうございます」
「いいよ。まぁビックリはしたけど」
そう言いながら男性は立ち上がり、近くのゴミ箱にゴミを捨てに行ってしまった。
私は足に貼られた絆創膏を見て、さっきまでの光景が頭の中に浮かんできて恥ずかしくなり俯いてしまった。絶対顔赤くなってる。
あの後、カメラの男性はサンダルを脱いで泣いている私を見て、すぐに靴擦れだと分かったみたいで、持っていた絆創膏を貼ってくれたのである。そう!貼ってくれたのだ!
私の前にひざまずいて!足に絆創膏を貼ってくれたのだ!
見知らぬ男性がひざまずく姿に、何だか自分がお姫様にでもなった気になってしまい、こんな状況でそんな事を考えた自分が今さらながら恥ずかしくなったのである。
俯いた私は恥ずかしさから両手でハンドタオルを握りしめていた。男性が貸してくれた物だ。
泣いていた私にタオルを貸してくれて、絆創膏まで貼ってくれるなんて優し人なんだろうな。
それとカメラを構えていた姿は大人っぽいと思っていたけど、近くで見て話してみると年上って感じはしなかった。なんだか男性っていうよりも男子って感じだ。多分、同い年くらいだよね?そんな事を考えていると
「まだ痛いところある?」
彼の声がしたので慌てて顔を上げた。
どうやら私が下を向いていたので勘違いさせてしまったみたい。
「大丈夫です!そんなにひどくなかったので」
「そうか。取り敢えずこれ飲んで」
彼はそう言って何かを差し出してきた。
たぶん缶ジュースか何かだろう。ゴミを捨てに行くついでに買ってきてくれたみたいだ。
「ありがとうございます」
彼の気遣いを私は素直に受け取った。嬉しさと恥ずかしさを感じながら両手で受け取ったそれはアイスココアだった。ヒンヤリした缶がなんだか心地よい。
アイスココアを手渡した彼は、私の隣に座り
自分の缶を開けて飲み始めた。
それを見て私も自分の缶を開けて一口飲む。
何だろう。すごくほっとする。
「美味しい」
「うまいよな、アイスココア」
「私、缶のやつ初めて飲んだかも」
「もったいない。人生損してる」
「ふふっ何それ」
私はさっきまでの沈んだ気持ちが少し晴れていく気がした。アイスココアの美味しさがそうさせたのか、それとも彼の優しさのおかげなのか。多分両方な気がする。少し気が晴れたからなのか、自然に話しかけて来る彼に合わせて、私はいつの間にか敬語をやめていた。
しばらくアイスココアを楽しんでいると
「それで、何があった?」
不意に彼がそんな事を言いだした。
「靴擦れが痛かったから、泣いてたんじゃないだろ?」
彼はちゃんと分かってくれてたんだ。
泣いていた理由が靴擦れだけで無い事を。
私はそれが嬉しくて、でも何だか恥ずかしくもなってきて誤魔化すようにココアを飲む。
そんな私を見ながら彼は続ける。
「言いたくない事は言わなくてもいい。
でも、溜め過ぎるのはあんまり良くない」
「良くないのかな?」
「良くないな。溜めたら必ずどこかで溢れる。そうやって溢れたら大抵、良い事にならない」
「溢れるか。。。」
私は身に覚えがありすぎて下を向いてしまう。
「だから、言いたい事だけでも言う方が良い」
「言いたい事だけでも?」
「そう。言いたくない事は言わなくてもいいけど、言いたい事は言わないと心が疲れるから」
彼の言葉には何だか実感がこもっていて、説得力があった。
「言いたい事は言わないと心が疲れるか」
私は彼の方を見た。そんな私を見て彼は優しい笑顔をうかべながら少し肩をすくめる。
「アイスココアのお供に話してみなよ」
「何それ。でもちょっと聞いてもらおうかな」
「聞くよ。アイスココアのお供に」
私は彼になら話しても良いかなと思った。
ううん、違う。彼に聞いて欲しくなったのだ。
そうして私は自分が溜め込んでいたものを彼に話し始めるのだった。
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新作になります。
完結目指して頑張ります。
連載中の他作品になります。
良かったら読んでください。
https://kakuyomu.jp/works/16818792436529928645
ブックマーク、いいね、コメントしてもらえると嬉しいです。
宜しくお願いします!
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