私の恋のはじめ方

ラングドン

出会い

第1話

「はぁぁっ!来れないってどういうこと?」


私、小鳥遊紗夜たかなしさよは駅前で思わず大きな声を出してしまった。今日は日曜日なので人通りも多く、近くにいた通行人がこちらを見ているけど気にする余裕など今の私にはない。


『ごめんって。涼香すずかから会いたいって言われたからさ。今から行ってくる』


「意味わかんない!私と約束してたじゃん!」


『だから謝ってるだろ。今度なんか埋め合わせするかさ!そろそろ家を出ないとだから、もう通話切るぞ。じゃあな』


「ちょっと颯太そうた!まだ話は終わってないから!」


『⋯⋯⋯』


「ほんとに切った。。。」


通話の途切れたスマホの画面を見つめたまま、私はしばらく動けなくなってしまった。

今日は幼馴染の西池颯太にしいけそうたと映画を見に行く約束だったのに。その幼馴染は約束をドタキャンしてきたのだ。

こんな事になるならわざわざ待ち合わせなんかせずに、颯太の家に迎えに行けばよかった。

久しぶりのお出かけだからと、浮かれて待ち合わせを選んだ自分がバカみたい。

それに颯太も颯太だ!私との約束を何だと思っているんだ!さっきの謝り方もなんだか軽い感じだったし!だんだんと怒りが湧いてくる。


「もう颯太なんかしらない!」


そのまま家に帰る気にもなれず、私は映画館がある施設とは逆方向に向けて歩き出した。大股で早歩きになりながら、まるで幼馴染への怒りを表すようにズンズンと歩いて行く。でもその怒りも長続きしなかった。だんだんと歩幅も狭くなり、歩く速度も遅くなってくる。冷静になって、自分が優先されなかったんだと落ち込んでしまう。

歩き出した時の勢いはすっかり無くなってしまい、気が付けば下を向いてトボトボと歩いていた。どのくらい歩いただろうか?駅からはだいぶ離れちゃったな。今からでも引き返そうかと考えていたら


「痛っ!?」


急に痛みを感じて、慌てて痛みを感じた方を見る。履いているサンダルのベルトがくい込んで赤くなっている。親指の付け根あたりと踵、しかも両足ともに。慣れないサンダルを履いてきたせいで靴擦れしてしまったみたい。

このまま歩くのはちょっと無理そう。

どうしようかと顔を上げて辺りを見渡せば、すぐ目の前に公園をみつけた。とりあえずあそこに行こう。そう思い、ジンジンと感じる痛みを我慢して公園に入っていった。


私は公園にあったベチンに座って、脱いだサンダルの上に足を置き靴擦れした所を確認する。幸い皮が剥けるようなひどい事にはなっていない。よかった。これなら少し休めば駅まで歩けそう。ここで痛みが引くまで少し休憩しようかな。そう思いベンチに深く座り直した。

でも、やっぱり痛みが気になり視線を落とす。

靴擦れした足とまだ新しいサンダルが目に入る。気になったのは痛みだけじゃない。


「せっかくおしゃれしたのにな」


思わず言葉がこぼれる。

久しぶりに2人でのお出かけだから、いつもより張り切っておしゃれした。何を着ていくか夜遅くまで悩んだのも、新しいサンダルを履いてきたのも、少しでも可愛く見てもらいたかったから。


「なのに結局見てもらえなかったな」


言葉と一緒に別のモノもこぼれてしまう。

ドタキャンされてからずっと我慢していたのに。いや、我慢してたのはもっと前から。

一度こぼれたらとまらない。それはボロボロと溢れてしまう。分かっていたことなのに。

優先されないことも、自分を見てもらえないことも。それでもこうやって改めて突きつけられるのはやっぱり辛い。

私はそれを止めることも出来ずに、止める気にもなれずに、ただただ溢れさせ続けた。


『カシャ!カシャ!』


俯いている私の耳にそんな音が聞こえた。


『カシャ!カシャ!カシャカシャ!』


今の沈んだ自分の気持ちとは、あまりにもかけ離れた軽快なその音が気になってしまい、思わず顔を上げてその音が何なのか確かめる。

顔を上げたその先には1人の男性がいて、軽快なその音は男性から聞こえてくるみたい。


『カシャ!カシャカシャ!カシャ!』


私はようやく男性がカメラで何かを撮影していることに気付いた。私が知っている物より大きなカメラをのぞき込んでいるその姿は、まるでプロのカメラマンの様に思えた。

何を撮っているんだろう?気になってカメラが向いている方に視線を向ける。


「桜、咲いてたんだ」


どうやら私は、そんな事にも気付けない状態になっていたみたいだ。私の座っていたベンチの近くには満開の桜が何本か植わっていて、男性はそれを撮影しているみたい。

確かにこれは撮りたくなるかも。

そう思いながら、カメラを構える男性に視線を戻す。満開の桜の中、カメラを構える姿はとても絵になっている。なんか良いなああいうの。

そんな事を考えていると、撮影を中断して肩にかけているカバンから何か取り出そうとしている男性と目が合った。

すると驚いた顔をして私を見てくる。男性はしばらく私を見ていたが、何かに納得したよう顔をしたかと思うとゆっくり近づいて来る。


「どうした?大丈夫か?」


突然話しかけられて私はビックリして固まってしまった。


「何かあったのか?」


男性は心配そうな顔で見てくる。

そこでようやく私は自分が泣いていた事を思い出したのだ。


「とりあえず、これ使いなよ」


そう言ってカバンから取り出したハンドタオルを私に手渡してくれた。



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新作になります。

完結目指して頑張ります。


連載中の他作品になります。

良かったら読んでください。

https://kakuyomu.jp/works/16818792436529928645


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宜しくお願いします!

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