第26話 選ぶ/選ばない

 待宵駅近くの大型書店は、全国展開されているチェーン店だ。昔は別の本屋も何軒かあったらしいけれど、待宵駅近辺で残っている本屋は今はここだけになっている。

 人が多くて、私のような高校生が集まりそうなファーストフード店の前を見ないように気にしないように、拳をぎゅっと握りしめた。

 ひかるは霜越さんと並んで、前を歩いている。

 私は自分で自分の問題を、今どうにか抑えつけるしかない。

 倒れそうになりながらも、目的の本屋まで足を動かして、やっと自動ドアをくぐった。

「へえー、けっこう広いじゃん!」

「そうなんですよー!参考書も充実してて、その分どれ選んだらいいか分からない感じで~」

 いろいろな年代の人がいる。

 ただ、参考書のコーナーは、同年代がいる可能性が高い。

「参考書コーナー、どこ?」

「あっちのほうですー!」

 二人は先に行ってしまった。

 私は足がすくんでしまう。

「……森川さん」

 清水さんの顔を見る。きっと私は、ひきつった顔のままだろう。

「善のこと、怖い?」

 直球だった。

 怖くないといえばうそになる。

「……今までまわりにいなかったタイプなので、戸惑っては、います」

「……そっか。進学校なら、髪染めた人とかいないよね」

 納得してくれたことにほっとする。

 一方で、ここから逃げ出したい衝動に駆られるのを、必死になって、抑えつける。

「――手、力抜けそう?」

「……?」

「指の腹に、爪が食い込んでるように見えるから」

 私はゆっくりと、両方の手を開いた。

 左手は、人差し指の爪で親指の腹を、右手は、親指の爪で人差し指の腹を、ぐっと押し込んでいた。

 爪のあとがいくつもついて、血はでていないものの、赤くなっている。

「あ……」

 無意識のうちにしてしまったのだろう。なにを言おう。どう取り繕おう。

 けれど清水さんは、私の両手について、深くは聞かなかった。

「……森川さんが行けそうなら、僕の後ろ、着いてきて。善たち以外の人がいたら、無理せず離れよう。他に誰もいなくて、行けそうだったら、二人と合流しよう。でも途中で無理だと思ったら、すぐ声かけて。服の裾引っ張ってもらうのでもいい。一緒に落ち着けそうな場所まで行こう」

 私はうなずいた。

 深呼吸して、一歩を踏み出す。

 大丈夫、大丈夫。

 誰もいない。誰かいたら、逃げればいい。清水さんが、前を歩いてくれている。

 たとえ最悪な状況として、会いたくない人がいたとしても、目が合うのは清水さん。

 私じゃない。守られている。

 清水さんが参考書コーナーの角を曲がった。

 一秒、二秒。

 ひょっこりと、清水さんは戻って来た。

「大丈夫、あの二人以外誰もいないよ」

 ほおっと息を吐く。

 私は清水さんの後をついて、参考書コーナーを進んだ。

「英語と数学なー。……あ、景、相談なんだけど」

 二人は熱心に、参考書を見比べていた。

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