ぷらんくとす~小さな生き物と色~

@0620mizi

第1話タマミジンコ

積乱雲が立ち込める空、聞き慣れた蝉の声、8月の上旬、とある小学生はそこにいた。

「自由研究がわからないっっっ!!!」

そう叫んだ部屋の中、すると窓がガラガラっと開く音がした。

「うるさい西麻!こっちも終わってないんだよ!集中させてくれよ!」

「知るかそんなもの!田村お前は算数の宿題すら終わってないくせに!」

「ああもういい!外出ろこの野郎が!」

「ぷっぅつーん!!」

そう言って二人とも外に出る

……「アッツゥ!」

声を揃えて言った。

「なあ田村…今何度だよ…」

「スマホ充電中なんだよバカ野郎…」

「ああもう我慢ならん!俺は炭酸買いに行ってくる!」

「お、おい!」

水がはられた田んぼの間の道を縫うように通る。

…「おい、あれなんだよ」

田村が指さした方を見る。

そこには変なリュックにメガネ、ネットのような物を持ったおじさん…が田んぼのすこし大きめの用水路に対してニヤついている。

「……」二人は本能的に避けた。当たり前である。

「ちょばぼいっ!」するとそのおじさんは足の滑らせたのか、用水路に突っ込んだ

「ちょ、ちょいおっさん!大丈夫か!」

西麻は言う。だがどうやら頭から打ってして気絶したらしい

「お、おい田村!手伝え!」

「わ、わかった!」

二人は道から入って用水路にゆっくり入って行く。

状態を確認して

「田村お前先上がれ、こいつ運ぶぞ!」

「運ぶってどこまで!」

田村は聞くが、あきらめて上がって手を掴んで

「行くぞ!いっせぇの!」

一気に上まで引き上げる、そして用水路にいた西麻もまた上がる

「俺んちが今誰もいない、そこに運ぶぞ!」

「わ、わかった!」

暑い中、ゆっくり運んでいく

ーーーーーーーーーーーーーー

「んっ…んぅ…」

喘ぐ。

「目覚たかおっさん」

西麻は心配そうに言うが。

「うわあああ!ネットは!無事だよなぁ!」

突然起き上がってネットを探す彼を見てすこし驚きながらも

「なんだよおっさん、これのことか?」

破れたネットを見せると

「おわぁあぁあああ…まあまた今度大学にねだるか…」

ヘナヘナとなりながら涙目をこらえて

「そんなすごい物なのかこのネット」

「それはプランクトンネットって言ってね…2.3万円以上するのに」

「!!?」二人は驚く

「…まあとにかく救ってくれてありがとう…」

ネットを覗きながら「おっさん…山下つぅのか。何してたんだよ」

そう聞くと

「ああ…これをしててね…」

まだヘコみながらもリュックから水の入った瓶を出す

「何それ」

「この地域の小さな時だよ…」

「時?何言ってんだこのおっさん」

山下はすこし考えると。ピキーンときたように「君たち、自由研究で悩んでいないかい?」

「…いや別に……」

西麻が呟こうとすると田村は言葉を引き留め西麻を後ろに連れてすこしコショコショと話す。

西麻は小さく親指を立てて、振り返って

「…まあ悩んでる方かな」

そう言うと

「…じゃあ見ようか?」

「何を」

「この地域の色をさ」

…はぁ?といったような顔を二人はする。

「机を借りていいかな?」

「別にいいけど…」西村が言うとドンっ!と大きな四角いバッグが出てきた

「…なんだよこれ」

「顕微鏡さ」

慣れた手付きで開けながら

「せっかくならさっき採れたのを見ようか、コンセント借りていい?」

「ああもう…勝手にしろ」

ちゃくちゃくと用意を進めていく

「よし!」

「じゃあ~」

ウキウキで今度は二つとボール紙の箱を出す

「これは?」

「スライドガラスとカバーガラス~、いわゆるプレパラートを作るのさ」

「プレパラート?」

「まあ見てなって」

慣れた手つきでガラスを重ねてプレパラートを作って顕微鏡にセットする

「やっぱり居たな~?」覗きながら呟いてメモを取り始める

「おっさん文字書くの速!?」

「ほら、覗いてごらん」

西麻は顕微鏡を覗く、すると静止したエビのようなダンゴムシ…ではないよはそうじゃないような生物がそこにいる

「なんだよこの…キモい生物」

「キモいって言ったか?」

睨むと怖じけて

「い、言ってねえよ…で、なんだよこれ」

「簡単に言えばミジンコ、詳しくはタマミジンコ」

「見てみてくれ、なんか黒いのがあるだろ?」

「ホントだ、なんだこれ」

「それは複眼、トンボやハエなども持つ、ドーム型の目だ、この複眼はいくつもの小さな個眼によって作られていてな、個眼は人間と同じように角膜は持つが、ガラス体が無いんだ。」

「つまり見え方も違うのか?」

そうだな。人間とは異なっていくつもの個眼からピースを集めて、視覚を作るんだ。…パズルって言った方がいいかな?

「じゃあこの複眼がどう動くか、見てみようか?カーテンを閉めてくれ」

「お、おう」カーテンを閉めて部屋を暗くするとハンディライトを出して顕微鏡のプレパラートに光を向けると

「お、なんか動いた…ギロギロ動くな…」

「だよね?このタマミジンコは眼に筋肉を持って、縮めたりすることで動かせるんだ。」

「へー…」そう言うと

「お、おい、見せてくれよ」田村も迫って

譲ると見ながら「おー…」

「このタマミジンコやスカシタマミジンコは田んぼなど、かなり広い範囲に棲息していて、強い繁殖力を持つんだ」

「どうだ?面白いだろ?」

「なあおっさん、これが…あの用水路にどのくらいいるんだ?」西麻は言う

「どうだろう…範囲に絞られるけどあそこだけなら1700はいるんじゃない?わからないけどね」

「1700かぁ…多いんだな」

「そうだね…でもどうだい?自分の見たものよりもさらに小さな世界は」

「…嫌いじゃないかな」

「…何で僕がこの世界を「色」と言ったかわかるかい?」

「なんで?」

「その世界を、その眼でたった一つの「色」見えるからさ」

西麻は困惑しながら

「どういうことだ?」

「この世界を景色とか、多様性とか、そういう人もいる、けどそれ以上に、この世界はとっても…色づいている」

「そのうちわかるさ」

そう言うと田村が

「やっば!もう3時じゃねえか!塾行ってくる!」

「じゃあ僕もそろそろこのくらいで」

そう立ち上がると

「…また来てくれな!違うのも見たいし」

「わかったよ!」

そうやって、夏は暑い中過ぎていく。

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