第15話 緊張感のある空間

 そんな会話をしていると、程なくしてコーヒーとサービスのスコーンが届いた。


 トレイに乗せてとかではなく、映画で見るようなホテルのモーニングサービスが乗っているワゴンに乗って来た。なんか、背筋が伸びる気分だ。


「それじゃあ、早速勉強会を始めましょう」

「は、はい」


 僕は完全に飲まれていた。

 この上品な雰囲気、高いコーヒー。


 ドレスコード的には学生服が高校生にとっての正装だからいいのかもしれないけれど、どことなく場違い感を覚えてしまう。

 その原因はこのお店だけではなく……目の前に座る、真宮さんのせいでもある。


「ん……」


 コーヒーを一口含み、小さな吐息を漏らす彼女は、上品以外の何ものでもない。


 当然僕みたいに場の空気に飲まれるなんてことはなく、むしろ支配し、自身を際立たせるバフに変えている。


 窓から差し込む日の光、コーヒーの香り、古めかしくも洗練された内装。

 全てが彼女を引き立てる材料になっていて、僕は間抜けにもただただ見とれるしかなかった。


「……どうしたの? もしかして勉強道具、持ってきていない?」

「あ、いや……! あるよ! ちょうど、面倒そうな英語の宿題が出てたから……!」


 声を掛けられ、僕は慌てて教科書とノートを広げる。


 緊張感と共に、妙な恥ずかしさがあった。

 場違い、というか、僕自身があまりに真宮さんに釣り合っていないという事実に気付かされてしまったような気がして。


 英語の宿題に向き合いながら、それでも意識の何割かは真宮さんに向けられている。

 僕が彼女の存在を意識するみたいに、もしも彼女に自分が見られていたら、どう思われているんだろうとか。


 失望されていないか、とか。


「綿貫くん」

「っ! な、なに?」


 不意に彼女が僕の名前を呼び、眉間に皺を寄せつつじいっと鋭い目で射貫いてくる。

 全てを見透かされるようなその視線に、僕は全身が強張るのを感じた。


 ほんの僅か、沈黙が流れる。

 彼女は何を言いたくて僕の名前を呼んだのか……背中に僅かな汗を感じた、その直後。


「もしかして……つまらない?」

「え?」


 心臓がばくんと跳ねる。

 予想外の言葉だったが、それはある意味予想よりも聞きたくない一言だった。


 僕は今そんな表情をしていたのだろうか。

 顔から血の気が引くのを感じる。


 決してつまらないとか、そんなことを思っていたわけじゃない。

 ただ、だからといって、胸の内を素直に明かせるようなことを考えていたわけでもなくて――。


「そうよね」


 深い、諦めるような溜め息。

 その仕草一つに、呼吸ができなくなる。


 誤解だ。もしも僕がそんな顔をしていたなら、それは真宮さんのせいじゃない。

 ただ僕だけに原因があって――誤解を解かなくちゃいけないのに、上手く言葉が出ない。


 真宮さんは悪くない。

 僕が、つまらない人間だから――。


「やっぱり、勉強会なんてデートにならないわよね……!?」

「……え?」

「私も薄々気がついていたのよ! 勉強会って何……って! けれど、他に浮かばなかったんだもの!」

「え、えっと真宮さん? 一体どうしたの……?」


 突然喚きつつ両手で顔を覆った真宮さんに、僕はさっきま抱えていた思考を思わず床に落としつつ、戸惑うしかなかった。


「他に浮かばなかったって、どういう――」

「貴方を誘う口実よっ! 素敵なラーメンをご馳走してもらったんだもの、何かお返ししたいじゃない!? それでこの喫茶店が浮かんだのはいいけれど、きっかけになる理由が全然浮かばなくて……なんの理由も無く連れてくるわけにもいかないし……!!」


 ばたばたと、その場で足踏みしつつ身もだえる真宮さん。


 そんな上品さとはかけ離れた仕草に、僕は呆気にとられ――。


「……ふふっ」


 つい、笑ってしまった。

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