第19話 レッツ・トライ・デュエル(ガチ) Part2

 アリナが闇魔法を使うのに発動体は必要ない。

 水魔法も時たま抗議で使うことがある位なので、持ち歩くのはとっくに止めている。

 故に、アリナの発動体は校舎一階の二百七番ロッカーで置物と化していた。


「うーん。まあ全然いいんだが。

……お前もあれか。ガルシアに憧れてデュエル始めたって感じか?」


 ガルシア。

 少なくともアリナの記憶には存在しない名前だ。


「いやそういう訳じゃ……どなたですか、その人」

「はあ、知らんのかよ……。まあええわ。

ルカ・ガルシアってゆー奴。今日は来てねぇけど……特待の一年だし知ってそうなもんだが」

「ああ、なんかファーストネームは聞いたことありました」


 ほぼ毎日顔を合わせている幼馴染ルカの厄介オタクが連呼しているおかげで流石のアリナも名前は覚えていたようだが、苗字までは知らなかったようだ。

 とは言え先日のデュエルでの印象が強く、するっと顔を思い出せた。

 焦点の合わぬ薄紅色の目と、折り目正しい試合前後とは似ても似つかぬ猫撫で声に乗せられた皮肉。

 

「まだデュエルは良くわかんないですけど。素の身体能力の高さとか攻撃の技術とか、すごいなーとは思いましたけど。動機はまた別で」

「んーまあそんなもんか。不快に思わせてたらすまんな、最近多いんだよ『かのガルシア様みたいに発動体なしでやってみたいんですゥ〜♡』的な女子。

しかもそいつらに限ってクッソ弱い。んまァークソ雑魚、実体も出ねえ奴とかしょっちゅう……」


 トーマスの語り草がやたら愚痴っぽくなり、アリナは内心うんざりした。

 昼休みのシャーロットも然り、不機嫌な人の相手は体力を使う。


「あは、……そうなんすねェ」


 などと適当に返すと、誰かさんの場合は「ちょっと、ちゃんと聞いてないでしょーーー!」などと言われ更に面倒くさいが。


「……んああ、失敬。ま、ある程度強きゃあ何でも構わんからな。やってみ」

「あ、はーい」


 軽く返事をし、的の中心を凝視した。


 今までのように、過去の記憶から黒ずんだ感情を呼び起こしエネルギーの球を作り。

 十分な大きさになったところで、がむしゃらに投げつけた。


 壁が割れるような音と共に、トーマスの狼狽えるような声が聞こえてきた。


「うわ……マジでぇ」

「あ……こりゃ酷いですね……」


 二人の視線の先には、傷ひとつ無いまっさらな的と。


「ノア……お前運動神経悪すぎだろ!!!」


 四メートル程横にずれた大きな穴がぽつんと開いていた。



























「まあ、な。魔力は十分なようだし、あんま気にすんな。うん」


 雑なフォローと共に終わった初練習は大失敗に終わった。

 練習に失敗等存在するのか、とは思うがこの有り様を言い表わすには「失敗」という言葉が妥当だろう。


「あは……もうホント、こういうのは昔っから苦手で」

「うっ頭が……まあ慣れだよ、慣れりゃあマシにはなるさ

……多分」


 アリナはボールコントロールが最悪だった。

 それ以前に、摂取カロリーが過剰なまでに不足しているため、持久力が壊滅的なのだ。


「フィジカル面に関してはなんというか、もう……頑張りますって感じなんですけど」

「おう。頑張れ」

「いくつか訊いていいですか? 発動体について」

「んあ? まあいいが。そんな詳しくはないがな」


 訊きたい事は山ほどあったが、先ずは一番気になっていた話をすることにした。


「なんで、発動体なしで魔法を使える人が殆どいないんですか?」

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