第18話 レッツ・トライ・デュエル(ガチ) Part1

「ってなわけで。オリバーのお陰でめでたく飛べるようになりましたのだ!」

「あっそヨカッタネー語尾オカシイヨー」


 上機嫌に話すアリナとは対照的に、シャーロットは不機嫌だった。

 昨日出会った先輩オリバーの話をした途端、表情が曇り始めたのだ。


「そんなテンション低くなくても。あたし、なんかまずいことでもした?」

「べーつに、アリナがいいなら私は構わないわよ。

けど、その変なセンパイ。ちょーっと信用ならなくなったっていうか」


 そう言うと、不機嫌にマカロンを齧りながらぼやきだした。


「オリバー・ナイト、三年生で生物学部の特待生、非公式ファンクラブの人数は最多。

ルカ様よりファンが多いのがちょっと気に食わn……悔しいけど。まあ一般的にはモテると言われる部類の人よね」


 マカロンが減るスピードがやたら速くなっている。

 シャーロットはストレスを感じるとやけ食いする癖があるが、そこまでの事があっただろうか。


「うん。で……何が? 問題なくない?」


 少なくともアリナには、ただのかっこいい先輩である。

 シャーロットの不信感の源が見つからない。


「はあ……。あのね、おのぼせのアリナさん。最後の会話、というか最後の先輩のセリフ、ちゃーんと思い出してみて?」

「え? なんで?」

「いいから。一言一句違わず」

「ああ、うーん……確か、名前を訊いて」



『オリバーだ。三年のオリバー・ナイト。よろしくな、アリナ』



「はいストップ。そこ、もう一回」

「え?」


『よろしくな、


 なんでもないと思っていたパズルのピースがはまった瞬間、なんとも言えぬ気持ち悪さに襲われた。


「……あ」

「やっと気づいた?」


 そう。

 あの時、アリナは自分の名前を言っていない。

 接点が全くもって無い先輩に名前が知られているのは、どう考えても不自然だ。


「……怖ぁ」

「ったくもうアリナ、そーゆー所の危機管理甘過ぎだよ」

「あは、すいません……」


 道端の犬のフンやら蛇やらを見つけるのは早いのだが。

 人間との関わりに疎いのも考えものだ。


「でもなー、なんでわざわざアリナなんかの名前知ってるんだろーね。スカートの裾に名前書いてあったわけでもあるまいし」

「おいアリナなんかって何だよなんかって」


 アリナのスカートにあしらわれている刺繍は、シャーロットが二人が入学する時期に縫ったものだ。

 味気ない古めの生地に咲いた花は、一際目立つ。


「だってメリットがないじゃない。……顔は全く手入れしてない割には、いいかも知れない……けど?」

「え、それ褒めてんの? 貶してんの?」


 さあ、とそっぽを向いて呟いたシャーロットの皿は空になっていた。

 まだ午後の講義まで時間があるが、今日はやたら早食いだ。

 そのうち、また胃を壊して寝込むことになるであろうシャーロットの未来をこっそりと憂う。


「ま、どうせ暇だし。その辺も調べておくわ」

「あれ、暇なんだ。再来月テストあるのに? 暇?」


 グレートバース総合大学のテストは、十二月半ばと三月半ば、夏休み前の三回だ。

 テスト範囲はそこそこ広いので、早めに勉強を始めないと赤点なんてザラ。

 その後巻き返せなければ、落単やら留年やらも覚悟すべき。


 得意げにそう語っていたのは、他の誰でもないシャーロットなのだが。


「……ア、モウ時間ダー講義イカナイトー」

「ああ、ロッティ逃げんなーー!」


























 デュエル倶楽部の活動は専用の競技場か屋外(広場が多い)で行われる。

 今日は競技場だったが、アリナが着いた頃には既に練習が始まっていた。


「あ、あの……今日初めて来たんですけど」


 取り敢えず、指導者であろう男性の背中に声をかけた。


「おう。申込書は出したな? ノア、でよかったか」


 返ってきた声はなかなかに太く、厳つめの顔立ちがアリナの目に飛び込んできた。

 比較的長身なこともあり、アリナは少々怯えてしまった。

 それを押し殺し、会話を続ける。


「あ、はい。アリナ・ノアです」

「了解。俺はトーマス・ヘンデルな。んじゃ早速始めるぞ。

一応聞いとくが、飛べるよな? あと大体のルールとか」

「はい。とりあえずは」

「オーケー。んじゃまあ、こっち来い」


 トーマスはアリナを壁際にある的の前に立たせた。

 それはダーツの的のような同心円状になっている。


「手っ取り早く試合に出たいなら、まずは攻撃力向上より、精度の練習がいい」


 そう言うとポケットから杖型の発動体を出し、実演して見せた。

 結構距離があったが、的のど真ん中を貫いた。


「こうやって。あの的の中心に攻撃を当てるんだ。杖だったらこんな感じでいいが……発動体出してみ?」

「え、あたし発動体使わないつもりなんですけど……」

「ん?」


 当たり前のように放った言葉だったが、トーマスは目を丸くした。


「え? お前も発動体使わねえのか?」

「え?」

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