第13話 ザッツ・イズ・デュエル Part1
「思ってたより人多いなー。そんな人気なもん?」
「こんなつまんない世の中だからね。合法かつ安全にスリルを得たいんでしょ」
「理由がまた怖えわ」
十月三日の放課後のこと。
デュエルの試合会場は、多くの生徒達で賑わっていた。
人混みを掻き分けて、アリナとシャーロットはようやく席を確保した。
掻き分け損なって、シャーロットが七回程こけたことはともかく。
アリナの意向で、後ろの方の席である。
「やっぱり、こっからじゃ見づらいよ。だから、ね、今からでも前の方行かない?」
「昨日、観客席まで魔法が吹っ飛んでくるって言ったのは誰だったかな〜? ロッティさーん?」
「うぅ……でも滅多にないよ、そんなこと」
「それでも、さあ」
アリナの声のトーンが、普段より少し低くなった。
シャーロットがそう感じただけだったが。
「今、こんなとこで怪我でもしたら笑い話にもならないよ。……わかるでしょ?」
「うん、ごめん……。ただ、すごい上手い人もいっぱいいるし、よく見えた方がいいかなって……」
「なにその優しさ早く言ってよありがとう」
「えぇ……まぁどういたしまして。そういえばね、これ見て」
シャーロットは、おもむろにメモ書きを取り出した。
小さめの文字で、沢山の文が書かれている。
「これ……ルール?」
「うん。昨日の夜、基本的なのをまとめたの」
「すごい、ありがとう。ていうかこれ、全部手書きじゃん。どんだけ時間かけたの?」
「ざっと五時間かな。おかげで寝不足なの」
シャーロットは誇らしげに言うが、褒められたものではない。
彼女の目の下の隈。
その不健康な行動を物語っている。
「いや、ありがたいけどちゃんと寝て? 授業中寝ちゃうでしょうが」
「大丈夫。起きて
「……授業内容全部忘れたやつか」
「……っ、とにかく、軽く読んで」
シャーロットなりに厳選したようだが、やはり量が多い。多すぎる。
アリナが読めた部分を要約すると、こんな感じである。
多分、読み飛ばし可。
・審判の合図で、試合開始。
・競技前後には、礼と挨拶をする。礼に始まり礼で終える。
・競技中の暴言等は、競技の特性上可とする。しかし、その分試合前後の礼儀作法は重んずるものとする。
・礼儀を欠いた場合、スポーツマンシップの欠如を理由に三か月前後の競技を禁止される場合がある。
・競技者は、魔法を主に使用して相手に攻撃をする。魔法の程度は、相手が死なない程度までとする。
・基本的に、時間は無制限とする。しかし、諸事情により制限時間を設ける場合は、十五分以上とする。
・複数人での対戦(団体戦)の場合、双方のチームの人数を揃えなくてはならない。
・反則事項は、以下の通りである。
1、相手の動きを止める魔法を使うこと。ただし、障害物を使うなどの方法は可とする。
2、相手の思考に干渉する魔法を使うこと。
3、競技中に相手の発動体を破壊し、競技後に弁償等の措置を行わないこと。
4、相手の生命を脅かすような魔法の使用あるいは行動。
5、競技において、魔法生物の使用。
・競技終了には、以下の条件のうち一つ以上が当てはまる必要がある。
1、一方が降参すること。
この場合、降参した方が負けとなる。
2、一方が何らかの理由で戦闘不能になること。
この場合、戦闘不能になった方が負けとなる。
3、一方の反則行為が確認されること。
この場合、反則をした方が負けとなる。
4、制限時間を設けた場合、制限時間を迎えること。
この場合、複数人の審判が双方の技巧やダメージから、勝敗を判断する。
全て読んだ方ならわかる通り。
一部のルールが、殺してしまう可能性を前提として書かれている。
「色々と危ない気がするんだけど」
「それがデュエルの面白さだよ。ま、人間の心を持ってればそこまで酷い試合にはならないよ」
「ああ、もういーや、知らない。どうにでもなれ」
戦争も紛争も、ほぼ無くなった。
治安が昔より圧倒的に良くなった。
そんな甘ったるい世界で、人々は比較的安全に得られるスリルを求めるようになった。
シャーロット曰く、その時代の流れで、デュエルという競技が生まれたらしい。
「その経緯に納得してしまう自分が怖い」
「死にはしないから平気! たぶん」
「個人の感想じゃん……」
そんな話に興じていたら、急に辺りが静まりかえった。
もうすぐ試合開始のようである。
フィールドでは、二人の生徒がそれぞれの立ち位置で見合っていた。
「んーと、選手はあの二人?」
「うん。両方一年生のはずだよ。えーと、左が、……アレキサンドラ? で、右が……⁉︎ ルカ様⁉︎」
「ええ……? どしたの急に」
突然息が荒くなり、涎を垂らしながら体を震わせるシャーロット。
その姿は、幼い頃から付き合いのあるアリナから見ても、ただの変人であった。
以下のシャーロットの台詞、読み飛ばし可。
「この前言ったでしょルカ様だよルカ様特待生で物凄い秀才っていうか天才で運動神経も抜群で足めっちゃ速いしでもってお顔もまァー綺麗‼︎ 肌荒れのひとつもないとぅるんとぅるんで陶器のようなお肌とそしてそしてあのお美しい微笑みを何時たりとも崩さず迷惑なファンがいても全く怒ったりしないしすれ違うとなんかフルーティーないい匂いするしとにかくとにかくこのような私達を優しく照らす太陽のような存z(以下略)」
オタク特有の早口でのプレゼンは、残念ながら(笑)アリナの右耳から左耳へ光速で抜けていった。
他人への興味が薄めのアリナのことだ。
ちゃんと聞いたところで、全く覚えられないのである。
「うん、わかったからちょーっと静かにしようねー試合始まるよー」
無論、何もわかっていないが。
止まることを知らないシャーロットの早口を程々に聞き流し、フィールドの方へ目を戻す。
審判の合図と共に、試合開始である。
先に仕掛けたのは、左側の
彼の発動体は、硝子球のようなものだった。
発動体は、エフェクトあるいは実体を飛ばすようなものが一般的である。
しかし、彼のものは違う。
彼の火魔法を発動体に帯びさせる。
それを使い攻撃をする、というものらしい。
「ルカ様! ルカ様すごい! あの速度の球、軽々と躱してる‼︎」
「うわあああ、すご」
アリナには全くわからなかったが、彼の攻撃の技量も、一年生にしてはかなりいい方だ。
しかし、相手が強すぎるらしい。
ルカと呼ばれた少年は、微笑を崩すことなく、攻撃を躱している。
嘲るような微笑は、彼の余裕っぷりを表すようだ。
その足捌きは、この場にいる殆どの人は認識できないものだった。
アリナもなんとか認識しようと試みたが、すぐに諦めてしまった。
「ちゃちいなぁ、アレックス」
試合前の慈愛に満ちた微笑を忽然と冷笑に変えながら吐いた一言は、相手の少年、アレックス以外には聞こえなかった。
発言の内容に反して、やわらかであたたかい声だった。
そんな小さな呟きは、彼の神経を逆撫でするのには十分だったらしい。
ルカを凝視するアレックスの顔に青筋が立っている。
「っせえなチビ。避けてるだけの奴に言われたくねえ」
「そうかな。まず相手の技量を確かめるのも大事だと思うけど。
……でも、君相手じゃぁ必要なかったみたいだね! ごめんねっ」
「……クソ野郎」
ぴりりとした空気が走る。
「アリナ、こういう口喧嘩も見所の一つなんだよ」
「はあ」
確かに、それっぽい何かを感じなくもないが。
アレックスが声を張り上げて言った。
「文句言うんだったら、一寸でも攻めてみろっつーの。発動体も持たん腰抜けが相手とか、馬鹿馬鹿しいわ」
彼の殺気立った声に、ルカの猫撫で声が応える。
「いーじゃん別に。そんなの、僕にはいらないし」
「良くねえわ。俺がやりてえのは
「……いいの?」
「は?」
「君がそう言うなら、もう手加減するつもりないよ。いいの?」
ルカの発言に垣間見える余裕っぷりに、アレックスは内心たじろいだ。
それを感じさせぬよう、虚勢を張って言い放った。
「……望むところだな」
「そう。じゃ、始めよっか」
血色のない顔に、不気味な含み笑いが張り付いた。
「本物のデュエルとやらを」
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