第15話 うねり
セントラルに帰ってから一週間の休暇が終わると、詰め所に呼び出された。
用件はあれだろう。新たな配備先の辞令だろう。もう四回か五回目だ。大体の所作は心得てしまった。
そういう事で、わたしは白いネクタイを特にきっちり結ぶ。フレンズの衣装は別に洗わなくても汚れるということはないらしいけど、オオモズは丁寧に服を洗い直してくれたので、心なしか服がいつもより軽く感じた。
わたしは鏡をきっちり見据えた。気を取り直して、これからセントラルで結果を出せばいいんだ。セントラルだって他と比べれば、チャンスは少ないなんてことはないはずだ。
◯
久しぶりのセントラルはなんというか、あんまり感慨がわかなかった。前と全く変わらない景色、変わらない人。現地では常に戦端がひらかれて、死んだり怪我したりで人員は常に入れ替わり、拠点は修復を繰り返していく内に別の建物に変わっていくのに、ここはいつまで立っても変わっていないように思える。
わたしは代わり映えのない廊下をまるで泳ぐが如く進んでいった。隊長がいない以上、恐らく辞令は副隊長からだろう。
「あれ?オオモズ?」
そこにはセントラルには見慣れない白い狩衣であった。
「あれ、砂漠方面の仕事だったんじゃないの?」
「あぁ、お母さんが向こう行ってる頃にもう任期終わったから、今もうセントラルだよ。」
「あぁ・・・通りでセントラルにいたわけだ・・・」
「逆になんでセントラルにいると思ったのさ。」
「セントラル勤務は砂漠と比べてどう?」
「ん〜。まぁ、色々楽だよね、セルリアン少ないし、僕は事務嫌いじゃないし。」
オオモズは少し考えたあと、答えた。
「でも、僕は地方周りの方が好きかな。なんというか、セントラルは少し息苦しいって思うときがあるんだよね。」
わたしは後ろから急に殴られたんじゃないかと思った。
「じゃ、僕はここで。母さんも頑張ってよ!」
オオモズは新人の控え部屋の方向へ向かっていった。なるほど、オオモズなら新人教育は確かに向いているであろう。
◯
「よく無事に帰ってきましたね。」
「いえいえ。向こうでも大した戦闘はしていませんから。」
「平和なら、それに越したことはありませんよ。」
副隊長は思ったよりも、わたしを優しく迎え入れた。恐らく征討隊の件を気にかけているのだろう。ありがたいけど、むず痒い思いだ。
「副隊長も、壮健のようでなによりです。」
「壮健とは言い難い状況ですよ。こちらは。なにせ優秀な人材は軒並み持っていかれてしまいましたからね。」
「ははは・・・」
「それにしても、あなたの娘は、よくやっていますよ。やはり貴方は後進育成が上手いですわね。」
「いえ。オオモズは・・・何もしてやれていませんから、あれはオオモズ自身のポテンシャルですよ。」
「そう謙遜することもないでしょうに。」
会話はここで途切れてしまった。なんというか、まるで腹のさぐりあいをしているみたいである。
「貴方の新しい配属先ですがね、園長から熱烈な指名が入ったのですよ。」
「園長!?」
園長―ジャパリパークにおいては最高権威者としてジャパリパークの全てを定める法皇とでもいうべき存在
「園長は貴方を直轄図書館の司書として配備してほしい、そう仰っていました。」
「はは・・・わたしなんかが。」
「園長の命令だから、お互いに拒否はできないというわけです。正直優秀な人材を引き抜かれるのは・・・」
「司書の仕事は休みが多いらしいじゃないですか。休みはハンターでも働きますよ。」
「そうしてもらいましょう。では、辞令は図書館から頂くこと。」
わたしは一礼して部屋を去った。図書館か・・・自分は何処に向かっているのか。おそらくそれは誰にもわかっていなかっただろう。
けものの祈り みみのり6年生 @miminori6
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