第3話 報告とお散歩

       ▽第三話 報告とお散歩


 周囲を見渡す。

 この付近にダンジョンが出現した、なんてことは寡聞にして知らぬ。情報収集すらしたことがなかった。


 スマートフォンで検索する。


 やはり、この周囲でダンジョンが出没した、なんて話はなかった。よもや野良のゴブリンではあるまい、と思って周囲を観察した。

 報告せねばならないだろう。

 警察なり探索者ギルド協会なりに、だ。


 しかしながら、あり得ないとは思うけれど、本当に野良ゴブリンの懸念はある。

 誰かがこっそりと連れてきたのが逃げた、ということもあり得るだろう。その際、カイトが頑張って報告しても「そんな情報はなかった」で終わるかもしれない。


 不登校児で自己主張も不得手なカイトは、そのような未来を恐れた。


『見間違えじゃないですかー?』

『きも』

『そんな嘘ついてまで目立ちたい?』


 そんな幻聴まで聞こえてくる始末だ。

 たしかめねば、とカイトはリードを引いて周囲を散策した。最適解でないことは承知している。良くないことなのだろう。

 けれど、やはり誤通報したと思われるのは嫌だった。

 お願いします、見つかってください、と願いながらの追加お散歩。シュマロは歓喜にわふわふしていた。


 その末に見つけたのは、とある空き家の庭地だった。


 そこには古びた倉庫があり、扉が開けっ放しになっている。


 その扉が真っ暗だった。

 ぐるぐるとした不思議な渦まで見受けられる。イメージするところのブラックホールのような形状。

 間違いない。

 あれはダンジョンだろう。


 シュマロを見やる。

 首を傾げられる。

 

 少しだけ入ってみようかな、と思った。出てくるのは低レベルのゴブリンで決定している。であれば、シュマロならば勝てると思う。

 最悪の場合、逃げれば良い。

 何よりもカイトが危険視しているのは、シュマロの今後の安否である。


「魔物、倒させないと発狂しちゃうんだよなー」

「わん!」

「そうか、わんか」


 カイトはぐるぐると思考を回した。

 片手間でシュマロの背中を撫でてやれば、ぐんぐんと彼女は倒れていき、ついには腹まで見せ始めた。


 シュマロはジョブを得る前に魔物を倒した。

 果たしてそれは「一日一殺」に含まれるのか……


 それにカイトは探索者が受ける講習を受けていない。それを原因としてダンジョンを出禁にされたら?

 しばらくダンジョンには入れない疑惑がある。


 その上、付近のダンジョンはちょっとレベルが高い。


 レベル1でも行けるダンジョンはここ以外、かなり遠征せねば辿り着けない。

 ならば、今日はここでレベリングしてみて、それから報告してみたら良いんじゃないか、と思った。

 報告をすれば、最悪の場合、数ヶ月単位でギルド協会の調査が入るからだ。


 ここがゴブリンダンジョンならば、今日のレベリングは明日以降の安全に繋がる。超短期的に見れば危険に見えるが、明日以降を見据えるならば……挑まねばならぬ。

 行きたくはない。

 でも行かないことのリスクのほうが高い。


「……行くしかない」


 ダンジョンに足を踏み入れた。


       ▽

 シュマロはハッキリ言って強かった。

 ゴブリンを見つけるや否や、嬉しそうに駆け寄って噛みついていく。あまりものグロさにカイトは目を背けることで精一杯だった。


【レベルアップしました】


 あっさりとレベルが上昇した。

 レベル2になったことにより、カイトは新たなスキルを取得することができた。そのスキルは【スキル獲得率上昇】という。


 レベルアップ時、スキルを取得できるかは運が絡む。


 たとえば、今、同時にレベルアップしたシュマロはスキルを得ていない。

 これが積み重なっていき、冒険者として「才能あり」と「才能なし」が振り分けられるのだろう。


 つまり、カイトが取得したスキルは「才能を得るスキル」とも換言できる。


 スキルの詳細を確かめる。

 カードのスキルに指を添えれば、ホログラムのような形で説明が出現するのだ。そこには「発現者とテイム対象がスキルを覚える確率が大きく上昇する」とあった。


 テイマー専用のスキルらしい。


 効果対象はカイトとシュマロ、ということになるのだろうか。


「なんかとんでもないな……」


 ふわふわした気分になりながら、その日、カイトたちは帰還した。

 スキルが得られたのならば十分だ。

 明日以降もやっていける見通しが立った。

 スマートフォンでダンジョンの報告もしておいた。誤報告や悪戯が多いらしく、善意の情報提供なのにやたらと「マジですか?」的な手続きが多くて嫌になる。


 報告が終わり、明日、自宅にギルド協会の人がやって来ることが決まった。


「風呂入ろうな、シュマロ」


 赤が混じったサモエドはなるほど確かに狂戦士の才覚ありと見た。衛生的に放置はしておけぬのでお風呂に入れる。

 サモエドは毛量が多い。


 これを乾かすのに3時間も要した……

 お風呂と乾かしトータル4時間も飼い主と戯れられてシュマロは終始ご機嫌であったとは言い添えておこう。

 カイトは汗だくになったのだが。


    次回 レベリング

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