二十八刀目 そこまで辛くもない

「席につけ」


低い、厳しい声が教室に響く。

ふとそちらに目を向けると、青葉先生だった。

いつも通りの無表情で、心なしか冷たい目でこちらを見ている。

俺は慌てて起き上がり、席に着いた。

先生もなんか物騒になってるなあ。

あとで歴之助先生に話聞いてみようかな、なんでこうなったのか、とか。


「おい、早く座れよ。聞こえなかったか?座れ」


朔太郎と𣍲坂さんはまだ座ってなかったからか、青葉先生は口調を強めた。

朔太郎は軽く舌打ちをし、𣍲坂さんに軽く魔法をぶつけて席に着いた。

一度クラス全体を見回してみる。

朔太郎と矢太郎はつんつんして目も合わせようとしない。

皇さん姉妹はいつもよりも相手に対する態度がとげとげしい。

いつも一人でいる人は結構いつも通りだったりするけど、二人組とかでいつも一緒にいるところは、少し仲が悪くなっているように見える。

無視もあれば嫌というほど突っかかってくるところも。

音也は、さっきから俺には背中しか見せていない。

俺意外、みんなが違うから俺がおかしくなったのかと思ってしまう。

でも、俺だけはどうにもなってないんだと思う。

多分。


いつの間にか朝の会は終わっていて、一限前の休み時間になっていた。

一限は国語。

国語は波々伯部ほうかべふみ先生。

おっとりした先生で、いつも優しい。

今日はどうなってることやら。


「ほら、席に着きなさい。出欠をとります」


地味に口調が強くなっているかもしれない。

いつもは「席についてください」「出欠をとりますよ」だし。

いや、あまり変わらないか。

と、音也が筆を忘れていることに気が付く。


「……かそっか?筆。二本あるし」


そう声をかけて筆を差し出すと、音也は、筆を持った俺の手を邪魔だというように振り払った。

うん、いじめられてた時とあんま変わらないな。

諦めるしかないか。

都合のいいことに昔からいじめなんてよくあった話だ。

この世界に来たから何か変わるかと思ったけど、あまり考えない方が良いな。

夢見たところで全部壊されるだけだ。

いじめられているときは、過剰反応しちゃいけない。

おとなしく気配を消すのが一番の正攻法だと思う。

いじめを受けたことがない人はもっと大事なんじゃね?ダイジョブ?怖い、とかなるけど、意外とそこまでメンタル削られないんだよね。

ヒトにはよると思うけど。

俺はそうでもない。

靴隠されたって探せばいいし、紙くず投げつけられたとて痛くないし、水ぶっかけられたところで冷たいだけだし、あまり気にすることでもない。

俺は音也から目を話して、おとなしく授業を受け始めた。

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