蛹
西野 夏葉
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都会の夜は虫が鳴かない代わりに、人が喚く音に溢れている。飲食店の呼び込み、怪しいボッタクリ店の客引き、酔っ払いが極まって排水溝に吐瀉する音、胡散臭い思想をスピーカーから垂れ流して走る謎のトラック。田舎から出てきたあたしにとっては、決してそれらすべてを即座に「
ところで、蝉という虫はオスしか鳴かず、メスは鳴かないらしい。オスが大きな声で鳴くのは、交尾相手を探すべく、メスにアピールするためだという。これをヒトに置き換えるのならば、人間も蝉とたいして大きな差などない気がしてくる。そもそも蝉が成虫になれる確率は半分に満たないわけだし、生涯で誰とも結ばれることのないまま墓にも入れずにおっ死ぬ存在がいる人間界と、さほど違わない。人間のオスも、声を出さないメスにちょろちょろとついてきて求愛する。一皮剥けばどいつもこいつも交尾の相手を探している……というあたりもそっくりだ。
夏の風物詩だね……と風流に浸るのも結構だが、人間の言葉に訳すなら「誰かセックスしようぜ」だ。そのことに気づいてからは時折、除草剤を大量に撒いて、蝉が飛びつける木をすべて枯らしてやりたい衝動に駆られた。
反面、女は蝶になる……というのが、あたしには当てはまるかもしれない。
もともとはただの田舎町で、どこにでもいるただの芋臭い幼虫でしかなかったあたしは今、
惜しむらくは、あたしは希少なオオムラサキとかになることはできず、都会では意外と普通に見かけることのできるアオスジアゲハ程度にしかなれなかった点だろうか。綺麗だけど飛び上がって喜ぶほどの存在ではなく、不可ではないが可ももらえない。絶対評価に言えば確実に大きく化けたが、相対評価には中間層。それが今のあたしだ。
しかし、煙たがられることのない見てくれを手に入れた現状だからこそ、食うか食われるかしかない都会の片隅で、あたしはこうして生き永らえている。
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