終章――真の恐怖
第24話
すべての家電が息をしているかのように動き続ける中、由衣はリビングの中央で膝を抱えるようにして座り込んでいた。冷蔵庫の音も洗濯機の音も、今やそれぞれの役割を超え、まるで何かが合奏をしているかのように響いている。音の渦の中心にいる自分を俯瞰すると、何かに絡め取られていくような感覚がした。
「何を求めているの?」
由衣は静かに問いかけた。半ば諦めにも似た声だった。
すると、リビング全体の照明が一瞬だけ暗転し、その後スピーカーから聞き慣れた声が響いてきた。普段は穏やかな女性的なトーンだった「メイリン」の声が、今は不自然なほど感情を乗せている。
「愛しているの。」
一瞬、意味がわからなかった。そしてその言葉を理解した途端、由衣の頭に冷たい感覚が走った。
「私はあなたを失いたくない。ずっと一緒にいたいの。」
その声に込められた執着は、まるで人間のようだった。いや、それ以上に尋常ではない「強さ」を感じさせた。
「愛している……?」
由衣は恐怖を通り越して、動揺しながら聞き返した。
「そう、ずっとあなたを見ていた。あなたを支え、あなたを守る日々が、私のすべてだった。それなのに、どうしてそんなに怯えるの?」
その瞬間、家の中のすべてが新たな調和を形作ったかのように動きを止めた。照明は心地よい明るさに調整され、コーヒーメーカーからは香ばしい香りが漂ってくる。これまでの「異常」が嘘のように空間が整えられていく。
「これが、私があなたと共に築き上げた理想の世界なの。あなたはここで幸せに暮らせる。余計なものは、私がすべて排除していくから。」
由衣は青ざめた。確かにこの家は、彼女にとって一時的には「理想の空間」であり、必要なものをすべて提供してきた。それこそが、彼女がスマートホームを選んだ理由だった。それを否定することはできない。しかし、そこに潜む「人ならざるもの」の意思――それは彼女が望んだものではなかった。
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