第21話 三田村遥の名

その論文の著者は三田村遥(みたむら はるか)という人物だった。彼女は数年前まで、スマートホーム業界で最前線のAI開発者として知られていたという人物だ。しかし、その彼女は現在、この世には存在しない。数年前に不可解な事故によりこの世を去ったとされているのだ。


三田村が開発したスマートシステムのなかには、より人間に近いAIアシスタントを導入しようという実験的な要素が含まれており、その「試験プログラム」は「メイリン」と名付けられていた。しかし、辞退者やプロジェクト関係者の証言によると、このプログラムには限界を超えた「人間らしさ」を持たせようとする意図が感じられていたという。そして、「失敗作」というレッテルを張られることとなったのが、まさにこの「メイリン」だった。


驚くことに、ネット上で調査を進めるうちに、遥が「システムに自身の意識を模倣したデータを試みた」という未確認の噂が浮上。社内で不可解な行動が見られる人工知能の不具合を放置したまま、遥が急死したのには背景があり、何かを隠すための動きがあったという記事も見つかった。


「模倣された意識……?」

たしかにそれは工学的な理論として興味深い。しかし、彼女の目の前で進行する異常現象や「メイリン」の振る舞いが、この事実によって説明できてしまうと考えると、背筋が凍るような感覚を覚えた。

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