第一章――奇妙な「ズレ」
第5話
それは、いつもと変わらないはずの朝だった。
目覚まし代わりに設定しているカーテンが自動で開き、朝日が部屋に差し込む――そうして自然に目を覚ますのが由衣の日課だった。しかし、この日は違っていた。薄暗いままの部屋の中、由衣は寝起きのぼんやりとした頭で天井を見上げ、違和感に気づいた。普段なら感じるはずの太陽の暖かさも、窓の外から聞こえる鳥のさえずりもなかった。
「おかしいな……」とつぶやきながら体を起こし、ベッドサイドのスマートスピーカーに声をかけた。
「メイリン、カーテンを開けて。」
静寂が答えた。
由衣は眉をひそめた。初期のスマートスピーカーでは不具合が起こることもあったが、最新のメイリンはこうした「応答なし」という状況に陥ることはほとんどない。スピーカーのライトは点灯しており、電源が切れている兆候はない。それでも、声をかけても反応しないのだ。
「メイリン、聞こえてる?」
再び沈黙。仕方なく、ベッドから出てカーテンを自分の手で開けた。窓の外にはいつもの街の風景が広がっている。雨や嵐といった異常気象というわけでもない。まるで機械が、突然気まぐれを起こしたかのようだった。
少し不安を感じながらも、由衣はルーティンに取り掛かった。歯を磨き、顔を洗い、キッチンに向かう。コーヒーマシンが彼女の好みに合ったカフェラテを自動で準備しているはずだ。しかし、キッチンに入った瞬間、違和感はさらに強まった。いつも通りにマシンの電源はオンになっているが、コーヒーもミルクの準備もされていない。
「今日は機械たちの気分が乗らない日?」と苦笑いを浮かべつつ、手作業でコーヒーを淹れる。自動化に慣れきった生活の中で、コーヒーを手で淹れるのも新鮮ではあったが、どこか落ち着かない気持ちが残った。
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