焦熱

白川津 中々

◾️

望むからこそ、人は満たされない。


「次、いつ会える?」


紗枝の言葉に「来週かな」とだけ添えて、一人電車に乗った。彼女はこの後、スーパーによって食材を買い、家族の食事を用意して団欒の一時を過ごすのだろう。もしかしたら旦那と体を重ねるかもしれない。何食わぬ顔をして、家庭人としての仮面を被りながら。


「今の生活が嫌ってわけじゃないんだよね。子供は可愛いし、夫は誠実でよく働くし、別段何が不満ってわけでもないんだけれど」


言い訳なのか自嘲なのか、よくそういう風な物言いをする。

俺自身なんでもよかったのだが、彼女にとっては、その台詞を吐く事が大切な儀式だったのだろう。何度もその話に付き合わされ、挙句に「次いつ会える?」ときたものだから閉口ものであるが、彼女には必要なのだ。


紗枝は熱を望んでいる。

家族の暖かさでは到底足りない、身を焼き尽くすような破滅の炎を欲している。

人としてどこか欠落したようなところが、彼女にはあった。その望みは欲すれば欲する程に満たされず、その先には灰すら残らないと分かっていながらなお、彼女は求めずにはいられないのだ。


電車の中、楽しそうに笑う家族がいた。

罪悪感と、心苦しさと、それから、ほんの少しの愉悦が、俺の中にはあった。



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焦熱 白川津 中々 @taka1212384

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