第2話 パラレル2
# 宇宙人の策略
私の名前は田中誠。27歳、独身。特筆すべき取り柄もなく、平凡なサラリーマン生活を送っていた。ただ一つ、私には秘密の憧れがあった。それは...巨乳の女性だ。
「はぁ...」
会社の帰り道、電車の中で見かけた豊満な胸を持つ女性に目を奪われ、思わずため息をついてしまう。彼女たちは自信に満ち溢れ、輝いているように見える。対して私は、女性との会話すら上手くできない冴えない男だった。
「もし自分が巨乳美女だったら、きっと人生は違ったものになっていただろうな...」
そんな妄想を抱きながら、いつものようにアパートに帰宅した私は、部屋の電気をつけた瞬間、目を疑った。
「こ、これは...!?」
部屋の中央に、青白い光を放つ球体が浮かんでいたのだ。恐る恐る近づくと、球体は突然膨張し、まばゆい光に包まれた。
「地球人よ、我々はアンドロメダ星雲からやってきた高度知的生命体だ」
頭の中に直接響く声。パニックになる私に、その声は続けた。
「我々は地球人の欲望と進化の可能性を研究している。お前の深層心理を分析した結果、興味深い実験対象になると判断した」
「な、何を言って...」
言葉を終える前に、私の体は宙に浮かび、激しい痛みに襲われた。意識が遠のく中、最後に聞こえたのは「願いが叶うぞ、地球人」という声だった。
***
「うっ...頭が...」
目を覚ますと、見知らぬ部屋のベッドに横たわっていた。体が妙に重い。特に胸が...
「え?」
驚愕の声を上げる。私の胸には、見事な二つの膨らみがあった。慌てて手で触れると、柔らかく、確かに実在する。鏡を探して見つめると、そこには見事な巨乳を持つ女性の姿があった。
「こ、これが私...?」
しかし、恐怖はそれだけではなかった。顔には目も鼻も口もなく、ただ二つの小さな乳房が付いているだけだった。パニックになって叫ぼうとしたが、口がないため声は出ない。
「実験体TM-27、覚醒を確認」
再び頭の中に直接響く声。
「我々の改造は成功した。お前の願望通り、巨乳の女性の身体を与えた。顔の機能は全て胸部に集約されている。右の乳房が視覚と聴覚、左が発声と嗅覚だ。これから地球人社会での適応実験を開始する」
理解できない。これは悪夢に違いない。しかし痛みや感覚は鮮明で、現実だと認めざるを得なかった。
「な、なぜこんなことを...」
左の胸から声が出ることに気づき、さらに混乱する。
「お前の願望を叶えただけだ。巨乳になりたいと思っていたのだろう?我々は字義通りに解釈した。さあ、24時間後に再び接触する。それまでに新しい体に慣れるといい」
そう言うと、声は消えた。
***
部屋から出られないことに気づいた私は、新しい体の機能を理解しようと試みた。右の胸で見え、左の胸で話す。最初は混乱したが、徐々に慣れていった。しかし、この姿で外の世界に出ることなど考えられない。
「どうすればいいんだ...」
絶望感に襲われる中、ふと気づいた。この体には確かに違和感があるが、不思議と嫌悪感はない。むしろ、自分の胸の柔らかさや曲線に、ある種の満足感すら覚える。
「これが...私が憧れていたものなのか?」
鏡の前で体を動かすと、胸が揺れる感覚に奇妙な高揚感を覚えた。しかし同時に、これは宇宙人による残酷な実験だという現実も痛感する。
「元の体に戻してくれ!」
叫んでも応答はない。時間だけが過ぎていく。
***
24時間後、再び青い光が部屋に満ちた。
「実験体TM-27、初期適応期間を終了」
「頼む、元に戻してくれ!これは酷すぎる!」
「興味深い。我々の予測では、お前はこの体に満足するはずだった。巨乳への憧れは単なる外見への羨望ではなく、もっと深層心理に根ざしたものだと分析していた」
「違う!確かに憧れていたけど、こんな...顔がオッパイなんて...」
「では質問する。もし顔は普通に戻し、巨乳の体だけを維持するとしたら?」
一瞬、迷いが生じた。確かに、この豊満な胸と女性の体には魅力を感じる部分もある。しかし...
「いや、元の私に戻してくれ。男に戻してくれ」
「なぜだ?お前の願望は叶ったはずだ」
「違う...私が憧れていたのは、巨乳の女性そのものじゃない。彼女たちが持つ自信や輝き、存在感だ。自分がなりたかったわけじゃない...ただ、そんな女性と対等に接したかっただけなんだ」
長い沈黙の後、声が再び響いた。
「理解した。地球人の感情は複雑だ。この実験結果は我々の研究に大いに貢献する」
再び強烈な光と痛みに包まれ、意識を失った。
***
「うっ...」
目を覚ますと、自分のアパートのベッドに横たわっていた。慌てて体を確認すると、元の男性の姿に戻っている。夢だったのか?しかし、あまりにも鮮明な記憶...
部屋の机の上に、見覚えのない小さな球体があった。手に取ると、頭の中に声が響く。
「実験へのご協力、感謝する。我々の分析によれば、地球人の欲望は単純ではなく、深層に様々な意味を持つことが判明した。お前の真の願いは理解した。お礼として小さな贈り物を残す」
球体が光り、消えた。
翌日、会社の廊下で同僚の巨乳の女性とばったり出会った時、いつもなら目をそらしてしまう私だが、今日は自然と目を合わせて挨拶ができた。
「あ、田中さん、おはようございます」
「おはよう、佐藤さん」
緊張せず、普通に会話ができる。彼女の胸ではなく、目を見て話せる。
「そういえば、今度の飲み会、来ますか?」
「ああ、行くよ。楽しみにしてる」
自然な笑顔で答える私。宇宙人は私に本当の贈り物をくれたのかもしれない。巨乳への憧れではなく、自信という名の贈り物を。
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