第3話 神龍との契約と最初の街へ

神龍〈シエル=ヴォルグ〉は、ただ静かにレイナの前に伏していた。

その金の瞳には、もはや敵意も威圧もない。

ただ、一柱の神格が少女に忠誠を誓うという、常識外れの構図だけがそこにあった。


「……なんで、あなた……わたしに従ってるの?」


声が震える。

戦いが終わった後の、異常な静けさの中で。

冷たい夜風が頬を撫で、火照った体温が少しだけ落ち着いていく。


神龍は、言葉で答えた。


「貴様の魂は、この世界の理を否定した。神たる我が干渉を拒絶し、力を退けた」


その声は重く、地の底から響くようだった。

人の声とは異質でありながら、不思議と意味が通じる。


「神である我とて、魂の格には逆らえぬ。我が従属は、理の結果にすぎぬ」


レイナは、ようやく理解した。


彼女が持つスキル《反逆》は、ただのスキルではなかった。

神の魂の干渉すら打ち払い、魂そのものの格を“上書き”してしまう。

今や、神龍ですら彼女の“格下”として認識されているのだ。


——神を従える少女。


その称号は、まだ誰も知らない。

だが、やがてこの世界に広がるだろう。


「じゃあ……行こう、シエル。まずは、街に行かないと」


神龍は頷き、レイナを背に乗せて翼を広げた。

満天の星を裂き、少女と龍は空へと舞い上がる。


かつて“いらない”と言われた少女は、

今や神すら従える“存在”となって、初めての目的地へ向かう。


それが、この世界での第一歩だった。

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