第2話 反逆スキル、発現

地面は砕け、木々は吹き飛び、空気が圧し潰されるように重くなる。

神龍〈シエル=ヴォルグ〉の咆哮が、森を焼き払うかのように響いた。


全長数十メートルの黒き龍。

異世界の中でも最上位の存在——それが、追放された少女の目の前に現れた。


動けない。

恐怖で、筋肉が硬直していた。

理屈じゃない。ただ“本能”が死を確信している。


——やっぱり、私は、ここで終わるんだ。


望まれず、拒まれ、ひとり捨てられた異世界。

何の力も持たないと思っていた。

どれだけ勉強ができても、優しくしても、意味がなかった。


心のどこかで、そんなものは最初から分かっていた。


でも、死ぬのは嫌だった。

認められたかった。生きたかった。

その想いが、胸の奥で黒く熱を帯びて渦巻いたとき——


脳裏に、何かが突き刺さる。


◆ユニークスキル《反逆》が発動しました

◆《森羅拒絶》:対象選定中……対象固定:神龍

◆対象の干渉を遮断します

◆反撃値、蓄積開始


視界が静かに変わった。

空気の重さが消え、音が遠ざかる。

神龍の威圧が、無効化された。


「……なに、これ……」


理解が追いつかない。

だが、たしかに“何か”が、レイナの内側で目覚めていた。


それは、世界の法則に対して発せられた絶対拒絶。

一つの対象を“否定”し、反撃する力。


スキル《反逆》はレベル1。

まだ未成熟で、その拒絶対象は一つ。

反撃値の蓄積にも限界がある。

だが、今のレイナには、それで十分だった。


目の前の“死”を否定するには、それだけで足りる。


神龍が再び咆哮をあげた。

しかし、それは届かない。

あらゆる攻撃は、レイナを傷つける前に霧散していく。


そして——


◆反撃値、上限に達しました

◆反撃ダメージを付与します


神龍の体に、見えない衝撃が走る。

天が割れたような音とともに、その巨体が一瞬よろめく。


神が落ちた。


世界最強格の存在が、レイナにひざをついたのだ。


◆神龍〈シエル=ヴォルグ〉が従属しました

◆従属理由:魂認定による反逆支配


「……うそ……」


目の前に広がる現実に、言葉が出なかった。


自分が、神龍に勝った。

スキルを持っていなかったはずの自分が、世界最強を屈服させた。


「……私……強いの……?」


その言葉に、わずかに震えが混じる。


弱かった自分が消えていく。

世界に拒絶された少女は、今、世界を拒絶する側に変わった。


その夜、レイナは神龍の背に座り、星空を見上げた。

誰も味方がいなかったこの世界で、初めて味方ができた。

そして、それ以上に——


「……ぜったい、許さない。世界も、神も、人間も」


少女の中に、確かな意志が芽生えていた。


神を超える。

誰よりも強くなる。

そして、世界のすべてに“反逆”する。


それが、レイナのはじまりだった。

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