第9話 境界のない夜
窓の外は静かで、月の明かりだけがカーテン越しに揺れている。
まるでこの部屋だけが世界から切り離されているようだった。
言葉は交わさなくても、彼の視線が私をまっすぐに捕まえていた。
「大丈夫?」
そう言って伸ばされた手に、自然と触れていた。
指先がふれあった瞬間、心がじんわり溶けていく。
「…うん」
本当は怖いはずだった。
夢の中で、現実からどんどん離れていく自分に気づいていながら、それでも戻る気になれなかった。
彼は私の肩を抱き寄せ、静かに唇を重ねてきた。
優しいキス。
でもその奥に、今にも崩れてしまいそうな切実さが宿っていた。
息が詰まりそうなほど、近い距離で見つめられる。
胸に手を当てられた瞬間、鼓動の速さを悟られてしまいそうで恥ずかしくて目を逸らした。
「恥ずかしがらなくていいよ。全部、見せて?」
彼の声は低く穏やかで、どこまでも優しい。
頷くと、彼はそっと私の上着に手をかけ、丁寧に脱がせていった。
少し肌寒さを感じるのは、服を脱がされたからじゃない。
心の奥の何かが、急に無防備になったからだった。
ブラの上からそっとなぞられた指先に、体がビクリと跳ねる。
「…可愛い」
耳元に落とされたその言葉に、思わず喉の奥から声が漏れた。
自分がこんなふうに乱されるなんて、思ってもいなかった。
カップをずらして胸元に直接触れられると、火が点いたように体が熱を帯びていく。
形をなぞるように、ゆっくりと揉みしだかれながら、唇は首筋へ。
じわじわと攻められる感覚に、全身が震える。
「んっ…あ、だめ…」
「だめじゃないでしょ?こんなに感じてるのに」
指が下腹部へと滑り落ちていき、ショーツの中へと入り込む。
夢の中とは思えないほど繊細で、現実以上にリアルな感覚が私を襲う。
「あっ…!そ、こ…」
息が上がり、思わず彼の肩にしがみついた。
指が濡れた部分をなぞるたび、腰が勝手に跳ねる。
恥ずかしくて、声を押し殺しても、体は正直だった。
「我慢しないで…もっと感じて?」
彼は私の足を優しく開かせ、そのまま身体を重ねてきた。
先端が触れ合うと、震えるほどの緊張が走る。
「夢でも、ちゃんと伝わってるよ。全部」
ゆっくりと、でもしっかりと奥まで満たされていく。
息を詰めて、体を受け止めた瞬間、胸の奥がきゅうっと苦しくなる。
「…んっ、あ、あっ…!」
繰り返される深い動きに、頭が真っ白になった。
体の奥で何度も何度もぶつかり合って、そのたびに彼の名前を呼ぶ。
夢なのに、汗のにおいも、彼の体温も、声も、全てがリアルで──
「好き…」
気づけば私はそう呟いていた。
誰にも言えなかった想い。ずっと心にしまっていた気持ち。
この夢の中でなら、やっと素直になれる。
彼は何も言わず、ただ深く、深く私を抱きしめた。
______
一度果てたあとも、彼はそっと私の髪を撫で続けていた。
胸に顔を埋めると、心臓の音が聞こえる。
こんなにも穏やかな音を、自分のために響かせてくれていることが、何よりの幸せだった。
「…ねぇ」
「ん?」
「次に目を覚ましたときも、ここにいられるのかな」
彼は少しだけ黙って、それからそっと笑った。
「香が望めばここが現実になるんだよ」
──あぁ、そうか。
この夢は、もう“夢”じゃないんだ。
永遠に続く夜のなかで、私はそっと目を閉じた。
彼の腕の中でなら、もう現実なんていらない。
夢の続き けに @kni_n18
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