第4話。奈波と姉妹
「
バイトが休みの日。
相変わらず、澪音はジャンクフードが好きみたいだけど、体型維持が出来ているのは羨ましい。私はポテトを食べながら、澪音と話を進める。
「ちょっ、周りに聞こえるでしょ」
「別に大丈夫だって。わたし達、顔は出てないんだし、声でわかる人なんて滅多にいないよ」
「澪音はファンの人から声とか、かけられたことないの?」
「ないね。エレンのグッズ付けてる可愛い女の子にわたしですよアピールしたことあるんだけど。ウザがられてたし」
澪音って、自分のことを遠ざける人に限って自分から近づくから。そうやって、変な立ち回りをすることがある。
「まあ、でも。顔出し配信って、リスクの方が多くない?」
エレンが顔を隠してるのだって、その辺が関係しているからだと思った。私は最初からやるつもりはなかったし、今さらやれと言われたら抵抗があった。
「なら、逆に顔を出さない配信とか」
「それ、普通の配信じゃん」
「違うって。ほら、これ」
澪音が私にスマホを見せてきた。
「これって、最近流行ってる配信スタイルだよね」
自分の立ち絵を動かして、リアルタイムで連動させる。昔から似たようなことをしている人は居たけど、最近は3Dだったり、本格的な物も増えてきた。
「顔を出さないのなら、こういうのもありなのかって」
「うーん。確かにアニメ系は嫌いじゃないけど……」
「知り合いの絵師の子に頼んであげようか?ちょっとお金はかかるけど、有名な人だから、人の目にも……」
「澪音」
私が名前を呼ぶと、澪音がハッとする。
「それってさ、澪音の知り合いではないよね?」
「エレンさんの知り合いかもですね」
「だったら、ダメ」
エレンが私に関わらなくても、エレンの周りの人間が私に関わったら意味が無い。それは他人から与えられた価値であって、私と澪音が一緒に見つけた答えじゃない。
「わたし、奈波のそういうところ好き」
「無駄に理想が高いクセに無能なところが?」
「いや、そんなわけないって」
わかってる。本当はエレンに頼った方が上手くいくことくらい。だけど、きっと、エレンの繋がりで私を知った人は、才能のない私に失望すると思うから。
そんな結果になるくらいなら、私はエレンに頼りたくない。勝手なわがままだけど、どうしようもない。
「とりあえず、個人で頼めそうな相手を探してみる。奈波の配信のやり方だと、アイコンか立ち絵は欲しいからね」
今の私が付けているアイコンは自分で描いたものだけど。アイコンを見て、私のことを小学生と勘違いしたコメントがあった。
私のファンの人が、小学生ではないと訂正していたけど。それなりに恥ずかしかったと記憶している。自分に画力がないことくらいわかってるけど。
「そういえば、エレンのアイコンって澪音が描いたの?」
「いや、あれは貰ったやつ」
ネットで調べたら、エレンには象徴的なキャラクターイラストが存在している。イラストのファンアートなども、それを基準に描かれているけど、澪音がアイコンとして別の物を使っているのが気になった。
「ふーん」
「昔から応援してくれてるファンの子が描いた絵でさ。気に入ってるから使い続けてる」
「私にアイコンどうこう言うのに、エレンは好きなの使うんだ」
「まあ、ファンは大切にしないと」
その時、澪音の手元に置かれていたスマホが鳴った。澪音は画面を確認すると、マナーモードに切り替えて、画面を消していた。
だけど、何度かスマホの画面がついたところを見れば私も気になってしまう。
「彼氏からの連絡?」
「はは。なにそれ美味しいの?」
「じゃあ、彼女?」
「んーみたいなものかな」
澪音が本気で言ってる気がしない。
「なんか、ずっと鳴ってない?」
何回も画面がついてる。澪音はスマホをカバンに入れて見えないようにするけど、大事な連絡じゃないのだろうか。
「澪音ってさ、肝心なことは隠すよね」
「隠し事なんて誰でもあるよ」
「その隠し事に私も巻き込まれない?」
澪音の表情は変わらない。でも、あまり聞いてほしくないという顔だった。
だから、私は聞かないことにした。でも、私が気を使ってあげたのに、澪音の顔が驚いた表情に変わっていた。
澪音の視線の方に目を向けると、妙に堅苦しい格好をした女性がいた。辺りを見回していたけど、すぐにこっちに気づいたのか、席まで近づいてきた。
「澪音。どうして、電話に出ないんですか?」
その問いかけをされた澪音はテーブルの下に隠れていた。しれっと、私の脚に触っているけど、今さら隠れても手遅れだと思った。
この人、どこかで見たことある。
有名人じゃなくて、もっと身近な人。化粧のせいでわかりにくいけど、よく見ればわかる気がした。
「澪音の……お姉さん?」
女性の視線が私に向けられる。
「もしかして、奈波さんですか?」
「やっぱり、澪音のお姉さんなんだ」
昔会ったきりだったけど、澪音と顔が似ているからわかった。美人という言葉がよく似合うけど、初めて会った人は見た目がキツそうな印象を受けるかもしれない。
「わたしのことは気軽に
「琴海さん、どうしてここに?」
「仕事をほっぽり出した妹を迎えに来ました」
どうして、澪音が今日は家じゃなくて外に出たのか疑問だったけど。家に居ると琴海が来るからだったわけね。
「ちょっと澪音、仕事があったなんて聞いてない」
「仕事じゃない。レッスンだよ」
まだ澪音は私の脚を掴んでいる。
「レッスンも仕事のうちです。最近、ずっとサボってますよね」
「わたしは天才だから、練習なんて必要ないよ」
せめて、テーブルの下から出て来て話をしたらいいのに。ただ、琴海と正面から言い合いを出来る人の方が少ないと思ってしまった。
「だいたい、なんでここがわかったの?」
「カバンの中に追跡装置を入れてます」
「は?」
澪音が驚いて飛び出してきた。澪音がカバンの中を探してみるけど、そんな物は無いという感じだった。
「ご友人と遊ぶのは結構ですけど、自分のやるべきことを終わらせてからにしてください」
「わたしの人生、どうして他人に口出しされないといけないの?」
明らかに空気が悪い。澪音って昔から自我が強いから、抑え込まれるのは大嫌いだと思う。
「わたしは歌を仕事にしたいという、澪音の願いを叶えているだけです。澪音の人生とやらにわたしは利用されている立場ですよ」
「じゃあ、放っておいて。今は奈波と大事な話をしてるんだから」
澪音が私の腕を掴んでくる。そのまま引っ張られて、私と澪音は琴海から離れようとしていた。
「奈波さんの人生を邪魔しているだけではないですか?」
琴海の言葉で澪音は立ち止まった。
「もし、これから先。奈波さんの人生がよくない方向に進んでしまったら。澪音は責任を取れますか?」
「バカなこと言うな」
澪音の怒った声が私は怖いと感じだ。
「責任?ああ、取るよ。奈波が不幸になったら、奈波が死ぬまで何がなんでも、わたしが養う。それで文句ないでしょ」
「澪音……」
琴海の返事を聞かず、澪音は私の手を引いて店から出て行った。琴海を追ってくる気はないのか、私は澪音と二人で歩き続けていた。
「奈波……ごめん……」
私の顔を見ずに澪音は謝った。
「わたし、自分勝手なこと言った」
澪音は本気で私の手助けをしようとしている。その事実を知って、私は胸が痛む気がした。本当に澪音の才能を私に使っていいのかと。
凡人の私には澪音の行動が理解出来なかった。
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