第2話

4


カルロスたちは、王宮に戻ってきた。

そこには神官長と聖女ユミルがいた。


「これはこれは、カルロス王子、

とんと姿をお見せにならないので、

何処かに雲隠れしたのかと思っておりました。」

(こいつが神官長か、失礼なやつだな)


「あちこち聖女を探しまわっていてな、

ここに、ユミル様よりも力のある聖女を連れて来た、

この者を筆頭聖女にしようと思う。」


「ご冗談を、その者は何ができるのかな?」


私は妖しく微笑んだ。

「そうですね、たとえば物を浮かせるとか、」


私は以前から、カルロスの透き通った長い銀髪に目を付けていた。

人間の髪の毛は、結構強度があるものなのだ。


テーブルの上のスプーンやフォークに、輪にして首に掛けてあった髪の毛を素早く巻きつけると、それらがあたかも、空中で踊っているかのように浮遊させた。


「いかがですか?」

「それくらい、私にもできますわ!」


「ではここにカードがあります。

これを裏返しで、全部当てて見せましょう。」


カードを使ったマジック、

コインを使ったマジック、

ハンカチを使ったマジック、

次々と披露していくと、神官長にもユミル様にも、

余裕がなくなってきた。


「ち、治癒力は?

それが一番肝心なのですわ!」


「しかし、ここに怪我人はいないが、困ったな、

おお、そうだ、」


カルロスがそう言って合図すると、

護衛騎士のラリーが剣を抜き、


「失礼!」

と言って、いきなりカルロスの左腕をズバッと切り落とした。


「ヒィィィーッ!」

「キャァァーッ!」


レイナが床に落ちた血まみれの腕を拾った。

それをもとの位置に当てがうと、カルロスの肩にさっと布を掛ける。


「ワン、ツー、スリー」

とカウントすると、左腕はすっかり元通りになっていた。


ユミルは腰が抜けて、泣きそうな顔でヒステリックに叫んだ、

「私は神の心が分かります、

神に選ばれるのは私の筈です!」


(さすがに、それはないだろう)


「それでは、国民の前で試してみましょうか?」


カルロスがそう言ったので、

冒頭のギロチンの場面になったのだ。



5


第一王子が連れてきた娘が筆頭聖女か、

それとも第二王子の婚約者が筆頭なのか、

つまり次に国王になる者を決めるこのイベントに、

貴族も国民も釘付けになった。


中央広場には入りきれないほどの人が集まり

盛り上がりを見せた。

朝まで降っていた雨も止み、絶好のパフォーマンス日和だ。


「こんなに大勢のお客さんの前でマジックができるなんて夢みたい。」


会場に入る前、レイナはうっとりと青い空を見上げ、足元に視線を移した。

木漏れ日が水溜まりにキラキラ光る。


レイナははっと気付いた。

木の葉の隙間から地面に映った太陽の影がおかしい。


カルロスを呼ぶと、厚紙に小さな穴を開けて、

別の黒い紙に太陽の形を映した。


「見て、太陽が少し欠けている!

カルロス、あと1時間くらいで

凄いイリュージョンが見られるかもしれない。」


---


さて、冒頭のギロチンイベントが終わり、

カルロスが積んであった全ての大根を切り終えて、勝利を確信した時、


貴賓席から甲高い声がした。

「その女は魔女よ!」


叫んだのは第二王子の母、現王妃だった。

「首を切っても生きているなんて、魔女に違いないわ!

第一王子は騙されているのよ!」


(あー、このおばさんそうきたか)


それに神官長が追随した。

「神に仕える私には分かります、

あの女は確かに魔女です!」


まわりはザワザワしだした。

(カルロスを何度も殺そうとしたくらいだから、

ここで負け組になるのは痛いわよねー)


その時民衆の中から声がした。

「なんだか、寒くなってきてないか?」

「そういえば、少し薄暗くなった気が、」


カルロスと私は顔を見合わせて、ニンマリ笑った。

(グッド タイミング!)


「あなたたち2人の言葉に、神がお怒りになったのですよ。」

「なんですって、この魔女が!」


あたりは急に暗くなってきた。

「ユミル、おまえが空を戻すのだ!」

「む、無理です、

神は、神はひどく怒っています。」


神官長は、無理やりユミルに祈らせたが、

空はますます暗くなった。


「カルロス、今よ!」

「皆の者、神は真の聖女を侮辱した2人にお怒りになったのだ。

この2人を速やかに排除しろ!」


王妃と神官長は拘束されて放り出された。

レイナは真っ暗くなった空に向かって叫んだ。


「邪な心の者は去りました。

ここにいるのは、善良な者たちだけです。


私たちは、これからも皆で力を合わせて、清く正しく生きていくことを誓います。」


「おい、選手宣誓みたいになってるぞ」

「お祈りの言葉なんて知らないわよ」


黒い太陽の縁が、一瞬赤くなったかと思うと、

まばゆい光が輝いた。


実際、神に捧げる祝詞など、選手宣誓でも寿限無でも何でもよかったのだ、

そこにいる全員が、大聖女誕生に、既にひれ伏していたからだ。


(ダイヤモンドリングだ!

初めて見たー)


神様のイリュージョンは凄いなあー



6


国王陛下の病は回復してきた。

宮中の典医たちに阻まれて、謁見も許されなかったユミル様が、カルロス王子の許可を得て治療を始めたのだ。


「人の体にはマナが宿っていて、

それが滞っている時には、どんなに良い薬を使っても、身体が受け付けないものなのよ。

まったく、典医は何をやっていたのかしら。」


(へー、この人は結構凄い人なんだ。)


「筆頭聖女様、

あなたは、ハンカチやコインを使う聖女の力で陛下を癒してくれないかしら。

マナの流れが良くなるから。」

オホホホ


(こ、こいつはー)

ユミル様は悪役令嬢ではなく、悪役聖女とでも言うのかな、なるべく友達にならないようにしよう。


ユミル様は活動的になった。

彼女は以前から、聖女たちを所有物のように縛りつける神殿には不満があったそうだ。


今回、7歳も年下のルイス王子と婚約させられて相当頭にきていたらしい。

神官長がいなくなって、せいせいしたと言っていた。



7


私は、ようやく親離れした2羽のハトを、手乗りにする訓練をしていた。

そこにカルロス王子がやってきた。


「この子たちが、手に乗るようになったら、

私は、また大道芸人に戻ろうと思う。」

「えっ、どうして?」


「この前、顔バレしないようにして神殿で調べててもらったら

私の聖女の力は治癒力だけだって、

それもこの国で10番目くらい。」

「それはまた、ビミョーな立ち位置だなぁ」


「だからもう聖女はやめる、

ユミル様は立派だよ、

性格は悪いけど、凄い力を持っているから。」


カルロスは私の頭をポンポンと叩いた。


「でも彼女は言っていたぜ、

おまえは神様に溺愛されているって、

だから、おまえの方が筆頭聖女に相応しいそうだ。


それにあれを見ろよ、」


植え込みの反対側に、第二王子とユミル様が並んで歩いていた。


「“修道院に送られた王妃様の代わりに、婚約者の私が必要なのですわー”

とか言って、すっかり情が移ったようだ。」


(あいつ、無自覚のショタコンだったのか。)


「ルイスは可哀想だが、もう国王にはなれない。

ユミルさんが筆頭聖女になったら、ルイスとの婚約を破棄して、俺と結婚することになる。」


カルロスはジッと私の目を覗き込んできた。

「それでもいいか?」


(それは...いやだけど...)

「じゃあ、このまま聖女でいろ、

おまえペテン師だろ?」

「手品師だよ!」


「手品は人を喜ばせるためのものだろう?

神様も応援しているおまえのマジックで

これからも、俺と国の皆んなを幸せにしていって欲しいんだ。

おまえは最高の聖女だからな。」

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聖女=マジックギミック @komugiinu

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