聖女=マジックギミック
@komugiinu
第1話
1
聖女は断頭台の上にいた。
集まった民衆の前で、第一王子のカルロスが両手を大きく広げて声を張り上げた。
「ではこの娘、レイナが本物か偽物か、神の裁きを仰ぎましょう!」
次に私が叫んだ
「私は聖女です!
その証拠に、どんな事があっても
神は我が命を守るでしょう!」
頭と両手首を断頭台に固定された私の上から、
鈍く光るギロチンの刃が容赦なく落とされた。
そして私は敢えない最後を遂げる...わけない、
生きてるよ、物語が終わっちゃうじゃない。
こうして生きているのは、死に戻りでも、神様のチートでもない、
ドンキのおかげなのだ。
転生前、私がまだ日本で暮らしていた時
テレビでよく見るギロチンマジックのミニチュア版(1280円)を、ドンキホーテで見つけて買ったからだ。
タネ明かしをすると、刃がL字形になっていて、
何かにぶつかると90度回転して、
下から別の刃が出てくる仕組みだ。
詳しくはTikTokかなにかを見て欲しい。
それをカルロスが、大衆の前でも見栄えがするように最大級に作り直した。
(今回は、安全性を考慮して、
左手は鉛を仕込んだ義手で、
刃はそこだけにぶつかるように設計されている。)
ギロチンの刃が下まで落ちても、首が繋がっている私を見て、観客はどよめいた。
もうひと押し、
マジックはパフォーマンスだ。
衝撃でまだ頭はフラフラするが、私は思い切り足を踏ん張った。
さも当然という顔をして、群衆に向かい神々しく両手を差し出した。
「どうです、私が聖女だと神が認めたのです。
これ以上疑うと神は怒り、この世を天変地異で滅ぼすのです!」
近くでキンキン声が響いた。
「違うわ、私が本物よ!」
(まだ言うのか、この緑髪のビッチは?)
「おや本物だとおっしゃる聖女ユミル様、
ではあなたも同じ事をやってみますか?」
カルロスが、勝ち誇ったように言った。
「これを見てください。」
カルロスは、わざとらしく横に積んであった大根を、ギロチン台の穴に入れて、スパッと切り落としてみせた。
会場は皆、シーンとなった。
2
じつは私は聖女ではない、
ただのマジック好きの転生者だ。
前世の記憶を生かして、お祭りがあるところに出向いては大道芸人をしている。
マジックがないこの世界では、コインを消したり、カードを当てたりするだけでも結構盛り上がる。
その中でも“腕ギロチン”は、メインイベントだった。
キュウリやダイコンを切った後に、お客さんに尋ねる。
「この中に、片腕を失ってもいいという方はいらっしゃいませんか?」
客は大抵尻込みする、
頃合いを見て、あらかじめサクラを頼んでおいたおじさんが手を挙げる手筈になっている。
「俺がやろう!」
空気を読まず、そう言っていきなり前に出てきたのがカルロスだった。
(怖い顔したおにいさんが来ちゃった!)
そこで私は最大の失敗をした。
焦った私は、刃を逆に付けてしまったのだ。
(こ、殺される!)
血を吹き出したカルロスの腕をギュッと掴んで、
(神様お願いです、傷を治してください!)
と、必死に願うと、パァッと光って、傷が塞がった。
「ねえちゃん、それもマジックかい?」
そう言って覗き込んだ他の客たちには
「そうそう」
と笑って誤魔化すしかなかった。
「驚いた、君は治癒力もあるんだ。」
これが初めてとは言えない、
「ま、まあ、この切り傷くらいならね。」
「聖女なのか?」
「まさか、教会に行けば、この程度の人なんてゴロゴロいるから、
あははは」
彼はマジックに興味を持ったらしい。
「ハトを飼っているのか、」
「マジックには必須のパートナーなんだよ。
本当は白い子が欲しいんだけど、
手に入らなくて、
白いハトは愛と幸運の象徴だからね。」
「1人で馬車で移動しているのか」
「うん、色々な所へ行って、沢山の人に喜んで貰いたいから。」
「あ、それじゃ、ここで、
ハトのカゴを持ってくれてありがとうございました。」
私は右手を差し出した。
彼がつられて握手をすると腕がスポンと抜けた。
「うわっ!」
「あはは、義手(ギミック)よ、
よくできてるでしょう。
カルロスも少しは笑ってよ。」
3
実はカルロスは笑うどころではなかった。
王室に絶望して、海外逃亡しようとしている途中だったのだ。
次期国王は当然自分だと思っていたのだが、
現国王が病気になってから状況が一変した。
継母の現王妃が、自分の産んだ第二王子を王位につけようとして、
カルロスは何度も刺客に襲われた。
また、この国では、国王は筆頭聖女と結婚することになっている。
ところが教会は、神のお告げだと言って、聖女ユミルを第二王子と婚約させてしまった。
このままでは自分の居場所は無い、
それどころか、生命すら危ない。
逃げる途中、立ち寄ったこの町で、
祭り見物をしていたら、護衛の従者と逸れてしまった。
それで、楽しそうな歓声を上げる集団に惹かれて、レイナのマジックを眺めていたのだ。
「おい、ラリー、
俺は考えを変えた。」
カルロスは護衛に向かって言った。
「あの手品師を殺しますか?」
「違う、あの娘を連れて、もう一度王都に帰ろうと思う。」
(弟のルイスはまだ13歳だ、
今、父上に万が一のことがあれば、この国は王妃の実家と教会の好き勝手にされる。)
次の日、カルロスはレイナを訪れた。
レイナはハトにエサをやっていた。
カルロスは自分の身の上を説明した。
「おまえが、筆頭聖女のふりをして、俺と一緒にこの国を救ってくれないだろうか?」
「えー、嫌だよ、
だいたい私は聖女じゃないし」
「そこはマジックで誤魔化せよ、おまえペテン師だろう?」
「手品師とペテン師は違うよ、
失礼だなー」
「白いハトなー
王宮で沢山飼っているんだぜ。」
え?
レイナはピクッと反応した。
「尻尾が花びらみたいに広がっているやつもいてなあー」
(そ、それは、憧れの孔雀バトじゃないか!)
「今、卵を抱いているから、もうすぐヒナが生まれるはずだ。
どこかの貴族にでも下賜しようかなぁ」
こうして、レイナはハトのヒナ2羽と引き換えに、
カルロスの計略に加担することになった。
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