第2話 男性の歌人
前回、女性歌人を取り上げました。性別にこだわることもないのですが、今回は男性歌人の歌をご紹介しましょう。
不来方のお城の草に寝ころびて空に吸われし十五の心 石川啄木
ご存知石川啄木です。大人でも子供でもない15歳の啄木が寝転んで空を見ています。将来の夢とか不安とか心の中にあるでしょう。でも、青くて高い空を見つめていると、すぅーっと心が軽くなり、空に吸い込まれていくようです。爽やかですね。借金を踏み倒したり、女遊びにふけった啄木が書いたとは思えません。作品そのものと作者の私生活は別ものと考えたほうがよさそうです。
のぼり坂のペダル踏みつつ子は叫ぶ「まっすぐ?」そうだ、どんどんのぼれ
佐々木幸綱
男の子とお父さんが自転車で何処かへ出かけてます。登り坂で男の子がお父さんに このまま、まっすぐ行っていいのか質問しました。父はどんどん登れと答えます。映画のワンシーンのようです。カギ括弧や疑問符や読点が使われて、散文的だとも言えます。このまま、まっすぐに逞しく育って欲しいとの親の気持ちが伝わる一首です。作者は俵万智の師で、彼の父も彼の子供も短歌界の人です。
サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい 穂村弘
小学生の男子が作った短歌ではありません。れっきとした大人の歌人が作った歌です。作者は多分サバンナに行ったこともなければ象のうんこに話かけたこともないと思います。それでいいのでしょうか?いいんです。心の状態を表す形容詞が4つ並んでいます。いいんです、これで。作ったもの勝ちです。短歌の敷居が低くなりますよね。しかし真似してはいけません。穂村弘はひとりで充分です。
死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる 斎藤茂吉
穂村弘からガラッと変わり斎藤茂吉です。臨終の母に添寝している茂吉には、遠田の蛙の鳴き声が聞こえています。死に臨んだ際、聴覚が最後まで残るそうです。母にも蛙の声が聞こえていたでしょうか。その声は厳かな宗教音楽のようです。音が聞こえるのにシーンとしています。芭蕉の俳句『閑さや岩にしみ入る蝉の声』を彷彿とさせる一首です。(ちょっと違う!?)
心あてに折らばや折らむ初霜のおきまどはせる白菊の花 凡河内躬恒
百人一首の中から好きな歌をあげました。一面真っ白な世界です。とは言え、霜と白菊を間違えますか?そこが良いのです。これくらい大袈裟な表現、盛った感じが面白いです。
ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは 在原業平朝臣
こちらは紅葉で一面真っ赤な世界です。花筏も綺麗ですが、紅葉の竜田川もさぞ綺麗なことでしょう。『伊勢物語』のモデルと言われる在原業平の歌です。美男子の盛った表現が派手で鮮やかですね~!!(ミーハー……)
うんこから百人一首まで幅広い短歌について語ってみました。本当に短歌って楽しいです。何でもありの31文字の世界です。
私の好きな短歌 遠山ゆりえ @liliana401
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