傷モノと綿


過疎化の進む区域の、山に囲まれた東方面。

働き口は軒並み最低賃金、客層は時間帯問わず癖の強い町で、なかなかお目にかかれない高待遇な職場がある。

駅前の交番から横断歩道を挟んだはす向かい。達筆なフランス語を目印に提げた、ケーキ屋である。

赤白ピンクを基調にハートやバラやリボンをあしらった店構えは、年中バレンタインのような乙女心をくすぐるムードをアピールしている。


駅前では毎日のようにチンピラがバイクを暴走させているが、そのケーキ屋の近辺にはけっして立ち入らない。

相反する世界観がまるでN極とS極のように弾き合っていた。

扉を開けずとも中から濃密な香りがあふれ、交番勤務の警察の元まで流れつく。そうして自然と店の警備が厳重になったことも、店が清潔であるゆえんだろう。

ケーキ屋はさらにもうひと押し、あえて商品単価を高く設定し客層を選り好み、無法地帯でもティーパーティーができるほどの安全な異世界を独立させた。おかげで賃金も高く、学生アルバイトにも4桁の時給を当たり前に提供できている。


先週から世話になっているアルバイトの少女は、出勤のたび、この恵まれた環境に感極まっていた。

香水とはちがう天然のバニラの香り。フリルいっぱいのエプロンと制服。

ここが治安の悪さで有名な現代の地獄であることを忘れてしまいそうだ。

高校受験に失敗し、この町を抜け出せなかった少女にとって、このバイト先と出会えたことが唯一の救いであった。

商品が売れ残ったら持ち帰っていいのもうれしいポイント。だけど毎回お言葉に甘えていたら太ってしまう。それが少女の最近の悩みだった。


図に乗っていた、と言い換えてもいい。


土曜日の昼前。評判を聞きつけ隣の区から足を運んだマダム御一行が、絶好調な喋りで1時間弱滞在し、最後にさらっと5箱にもおよぶケーキを購入したあとのこと。

平穏な時間もつかの間、赤い枠に囲われた扉が引かれ、また新たに客が来店した。


「あっ、いらっしゃ……い、ま……せ……」


先ほどの疲れが残留した少女の笑顔は、ものの数秒で塵となって消えた。

派手な化粧を上品に掌握していたマダムから一転、もとから派手ないかめしい男客だったからだ。


バランスよく余白を残した眉目でありながら、茶を不味く仕立てたような強面。はちみつ色の頭髪は根元がカビていて、毛質に艶がない代わりにシルバーの人工的な光沢があちこちに乱用されてある。

身近な下品の代表格、ヤンキーではないか。

しかもただのヤンキーではない。


(わ、綿貫たまき……!? あたしの初恋、亮くんをいじめてたっていう、あの!?)


ヤンキー界の四天王のひとりに数えられる、別名、東の金鬼。

少女の巣立った東中学で、ともに輩出された世にも凶悪な卒業生である。

学校では今もなお、「本当にあった怖い話」として彼の罪状エピソードが数多く言い伝えられているという。


(こいつが怖くて、亮くんの友だちが何人か転校しちゃったんだよね……。うう、可哀想……っ)


実際は、たまきのいじめに加担していたクラスメイトが、報復をおそれて親に泣きつき、一家丸ごと離脱したのだが。

少女をはじめ、町民の多くは、その事実を知らない。

とはいえ、攻撃は最大の防御として、たまきが武力行使したこともまた事実。その一片のみ認知度が異様に高いがために、人々はたまきを絶対的な悪たらしめた。

それこそ、ラブリーできゃわわなケーキ屋とは、生涯無縁だと信じこんでいた。


(なんでここにいるの? なんでふつうに入ってこれるの!?)


線の太い巨体は、ターゲットを絞った店の扉にはサイズが合わず、半ば首を屈めるようにして店に入ってきた。

そう、ついに侵入を許してしまったのだ。今まで磁石の関係性を確固としてきた、毒属性のヤカラを。


彼にとっても地元であるこの町で、迷いこむなんてことはまずありえない。ともすれば、冷やかしかカチコミあたりだろう。

どちらかといえば、そちらのほうが、こんな店お断りだぜ! と敬遠していたはずだった。だから平和にうつつを抜かしていられたのだ。

ここは幸せな箱庭などではなかった。この町はどこまでいってもゴミ山なのだ。

もしも、レジの金を出しやがれと恐喝されたら。ショーケースの端から端まで全部寄越せと強奪されたら。店が気に食わねえんだよ破壊されたら。


(どうしよう……っ)


調理場で予約のホールケーキをせっせと作っている店長にSOS信号を出そうにも、目の前に稀代の鬼が立ちはだかり、棒立ちで死んだふりをするしかなかった。

不幸中の幸いか、彼はショーケースの中身にご執心なようだ。


店長のこだわりで、ケーキ屋の中でも少女趣味に富んだこの店は、本命の商品にもそれが如実に現れている。何十枚ものラブレターをイメージした「想いがあふれてやまないショートケーキ」や満月に見立てた「きれいだねと言ってほしいベイクドチーズケーキ」、上質な粉糖を妖精の粉のようにふりかけた「聖なる夜のおまじないガトーショコラ」などなど。品名に安易に「恋」や「好き」のワードを使っていないのがポエミーでキュンとくる。

鑑賞するだけで気分が上がり、口にすれば天にも昇る。そんなメルヘンワールドは、汚らわしい不良なんかには――無礼と承知で――お世辞にも似合わない。


(似合わないといえば……あたしの落ちたさくら高校に進学したって噂、本当なのかな?)


今は全身黒ずくめの不審な恰好をしているが、いつもはあのかわいい桜色のブレザーを着ているのだろうか。少女は想像して、あまりに不相応でムカついた。顔がいいからぎりぎり見れるけど。


(なんで? なんでこいつが受かってあたしが落ちるの? 不公平! 神様って意地悪!)


おそらく店員が同級生であることにも気づいていない彼に、ぷんぷんと鬱憤を募らせる。

一応客である彼に、さっさと帰れ! と言わんばかりのふくれっ面だったが、ひとたび目が合うと、涙が出る5秒前の泣き顔に豹変した。


「あの……」

「ひ、へいっ」


心と体の矛盾に動揺の波が襲い、とっさに居酒屋のような返事をしてしまう。


「こん中で人気のやつってどれっすか」


度数高めの涙のコンタクトをはめた赤面の店員は、さながら高熱を出した病人である。

が、たまきにとっては日常茶飯事なのでさして気に留めず、平然と定番どころの質問をした。


(な、なんでそんなこと聞くの? も、もしかして謎かけ? 暗喩?)


冷やかしにしては語尾に(笑)の悪ノリはなく、店員や商品を見入る表情は相変わらず無愛想だが、真摯なようにも感じられる。

しかし相手は腐っても、進学校在籍と噂の不良。ずる賢く騙しにかかるなんて造作もないだろう。

ダイエットできない〜などという甘えた考えに耽ていられたころに戻りたい。少女はメイド服のようなエプロンの裾にぎゅっとすがりついた。


「あの?」

「は、はひっ、に、人気の商品でっ……ですね。え、えっと……ち、チョコレート系が人気、で、です、ね。はい」

「……チョコレート系」

「は、はい、そうです。た、たとえば……に、2段目にございます『聖なる夜のおまじないガトーショコラ』や最下段の、で、『デートの待ち合わせはチョコタルト』。それから……その、隣の……『オンリーワン・ザッハトルテ』とか……で、でしょうか……」


元進学校志望の記憶力をもって覚えた商品名は、意地でも噛まずに伝えた。バイト歴1週間でもプライドはあるのだ。


「ふーん。……ならそれで」

「ひゃ、はぃ、それで……そそそそれでぇ!?」

「ああ、それで」

「え、え、あの、それって、えっと、ガトーショコラとチョコタルトとガトーショコラ!?」

「ガトーショコラ2回あったな?」

「しっ、失礼しました! ザッハトルテもでございますですわよね!?」

「……です」


まあせっかくだしガトーショコラは2個で、とさりげなく店員のミスをフォローしたうえで売上にも貢献してくれるたまきに、少女は驚きのあまり言葉づかいを崩壊させた。


(この人、こんなにノリよかったかしら!?)


中学のころは、いつでもどこでも誰にでも喧嘩腰で、ガンをつけては口を利かず、はた迷惑に殺気立っていた。

しかし、今。

不良らしからぬ真面目さ、ヤンキーらしからぬ素直さ、チンピラらしからぬ顔のよさ――は昔からにしろ、つまり、少女の知る「東の金鬼」ではなかった。砂糖ひとつまみ程度ではあるが、明らかに憑き物が取れたように物腰やわらかくなっている。

中学の卒業式から1ヶ月ほどしか経っていないというのに、いったい何があったというのか。

乙女チックな店にいるとおのずとひとつの答えに導かれる。


(さては……アレか。春が来たのか!)


そうだ、今は4月、出会いの季節。

冬になると猫がこたつで丸くなると言うように、百戦錬磨の名ヤンキーも、麗しい春には角が取れるのだろう。


よくよく見てみると、黒一色の私服はシャツとズボンというオーソドックスな組み合わせながら、肩幅の広さや股下の長さを嫌味なく強調し、メリハリのあるボディラインを引き立てている。ボタンやベルトには白をベースとした遊び心ある彩りがあり、単調になりがちなオールブラックコーデに粋な味をもたらしている。

これぞ、おしゃれなデート服。

その反面、ヘアスタイルはちょっとワックス多めでしなっていて、デート準備に気合いが入った様をリアルに感じ取れる。


お相手は? 行き先は? ケーキの意味は?

恋バナ好きの性で、少女のたまりたまった鬱憤はあっさり好奇心に変換される。

かといって私的な会話ができるほどの勇気は自然発生されず、少女はショーケースから該当のケーキを取りながら、あらゆるパターンの妄想を繰り広げた。ケーキのオリジナルのネーミングセンスが、それを健やかに、明るく、捗らせてくれる。


「あ。あと、ペット用のお菓子ってありますか」


ケーキを4つ選びとったと同時に、再び質問を受けた。

妄想のデートがただちにドックランでの散歩コースに様変わりする。


「ぺ、ペット用、ですか? は、はひ……こほん、ご、ございますよ。こ、こちらの、その、クッキーですとか、ど、どうでしょう……。わんちゃんも猫ちゃんも食べられますが……」

「じゃあそれもお願いします」


決断が早い。

ハートとリボンをあしらった袋に詰めた犬猫用クッキー、その名も『君には特別♡無添加クッキー』を含め、計5点のお買い上げ。

会計の際、商品を正式名称で読み上げてもからかう気配なく、ピアスをぶら下げた耳を紅潮させていたくらいだった。持ち帰り用の箱にケーキを入れて渡すと、ちゃんと両手で受け取ってくれた。


「ありがとな、髙橋タカハシさん」

「ありが…………えっ?」


この店では防犯の観点から店員に名札をつけない決まりになっている。

彼は最初からアルバイト店員が同級生だと気づいていたのだ。それでも最後まであえて話に出さなかった。

姓を髙橋という少女は、困惑気味に唖然とたまきを見送った。


意外にデキた不良だ。

もはやここまでくると本当に不良なのかも怪しく思えてくる。


扉をくぐって退店していくたまきの洗練された横顔が、突然、ギギギと軋むように険しくなっていった。

垣間見えてしまった少女は、ひゅっと喉を引く。

あたたかな春風のよぎる妄想が、瞬く間に冷気の立ちこめる地獄絵図に成り下がった。


やっぱり不良だ。

不良以外の何ものでもない。


扉が閉鎖したあとも、たまきの表情は変わらず。外でたわむれていた小鳥たちがぎょっとして飛び立っていった。

凄んだ目つきは、手に抱えるケーキ箱を貫いている。

箱ひとつとっても店のコンセプトに準じ、真っピンクでファンシーな仕上がり。服装からわかるとおり、たまきの趣味ではない。だがその程度のことは店の外装から簡単に予想がつく。

たまきが気にしているのは、外見ではなく中身のほう。


(ケーキ……は、やっぱ重すぎか? いやでも手土産の定番だっていうし。……そう、俺はただ、近所で人気の店があるから寄ってみただけ。俺が、食いたかったから買っただけ。そう。そうだ。だから……)


たまきはうんうんとうなずきながら、無理やり自分を納得させる。

箱から濃厚なチョコレートの香りがたゆたう。


(だから、別に、あいつに会うのが楽しみで浮き足立ってるわけじゃねえ)


駅の改札口へ歩き出したたまきは、無意識に頬をほころばせていた。

奇しくもチョコレートはたまきの大好物。

好きなもののことを考えると、気がゆるんでしまうものだ。

今のたまきならきっと、寝首を掻いてKOできてしまうかもしれない。





――ピンポーン。


ありふれたインターホンの音が、一室にこだました。

キュウゥ、と人のものではない甲高い声が、機械的な音階に乗せてハモる。

玄関口から聴こえる無機物と人外による不自然な調べに、リビングダイニングにいる唯一の聴衆、白いTシャツにほとんど色の抜けたジーパンを着た九が、顔を上げた。


親はわざわざインターホンを鳴らさないし、近所の人は怯えて滅多に近づいてこない。

来訪者は必然的に限られる。


人のものではない短い毛を絡め取っていたコロコロとした粘着質の掃除道具をキッチンの奥に捨て置き、急ぎ足で玄関へ移動する。

殺風景な入口の前では、身長の止まった九よりも格段に成長期である、体つきのふくよかなミケが、室内側を向いてたたずんでいた。九を見据え、手足をぴんとそろえ、キュゥ、キュゥ、と声を上げる。

危険を知らせる門番さながらのミケに、九はスマホのカメラアプリを起動しかけ――ピンポーン。二度目のインターホンで正気に戻る。危険なのは、ミケの魅力のほうである。

九がドアノブに手をかけると、ミケが足に引っつき、吠え続けた。九の足には粘着力などないはずだが、ミケはぴたりと離れない。

この重さは、きっと愛だ。

九は大事に足を運びながら、ドアスコープも覗かずに扉を開けた。


来訪者は必然的に限られる――たったひとりに。


「いらっしゃい、たまき! 待ってたぜ!」

「……よお」


昼下がりの太陽を無に返す、真っ黒な装いをしたたまきが、そこにいた。


予想どおり。正確に言うと、約束どおり。

本日、土曜日は、たまきの出張家庭教師サービスデー。少し気が早く定期テストの対策に、九の家で勉強会を催す約束を果たす日なのだった。


九はダテメガネをかけていないすっぴんにノーセットの黒髪という完全オフの恰好で、たまきを中に迎え入れた。


「何もなく来れた?」

「駅から一本道なのに迷うかよ」

「いやそれもだけど」

「え?」

「ここらへん暇人多いじゃん? いちいち遊びに付き合ってたら日が暮れちまうな〜って、ちょっと心配してたんだよ」

「あー……まあ、少しは絡まれたけど」

「やっぱりか〜」

「でも俺の顔見たら、けっこうあっさり引いてったから。平気」

「そ? だるかったら全然ぶちのめしちゃっていいからな!」


よその町だからって遠慮すんなよ、とまるでアットホームな口ぶりだが、言っていることは物騒極まりない。しつこいやつには俺の名前出せば一発だから、と九なりの手厚いもてなしに、たまきは若干引き気味である。


西の不良たちは、予期せぬ東のトップの来襲に、わざわざ休日の学校に集まって作戦会議を始めるほど騒然としていたが、 当の本人が西の元番長とひとつ屋根の下にいることは知るよしもなかった。……知らないほうが幸せなこともある。


「あ、そうだ、こ、コレ」


たまきが靴を脱ぐ前。肩にななめがけしている黒のカバンとは別に持つ、ピンクの小さめな手荷物を、たった今思い出しましたと言わんばかりに九に差し出した。


「え、それイマドキのファッションアイテムじゃなかったの?」

「ちげえよ」


たまきのキャラにもコーディネートにもパンチがあり、さっすがたまきおっしゃれ〜と思っていたのに。

鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる九に、たまきは呆れ半分に口をもごもごとこわばらせた。


「じゃあそれ何なの?」

「……け、ケーキ」

「ケーキ!?」

「ここに来る途中たまたま寄って、そう、たまたま。俺ん家の近くで。うまいって噂で。それで。まあ、ついでに。……よければ……ご家族と食べたりなんかしたりしてくれ」


早口でまくしたて、家に上がる動作の片手間に、九の胸下にズイッとロゴの書かれた箱の側面を押し付ける。


「えー! まじかようれしー!」

「あくまでついでだから、ついで」

「悪いな、気ぃ遣わせて。本当は俺のほうがたまきに尽くさねえとなのに」

「え……いや、なんで」

「いつも助けてもらってんじゃん? 勉強見てくれたり、あ、あと、この前のコンビニでの一件も」

「……あれは……その、面接、残念だったな……」

「あはは、いいのいいの。結果出んの早すぎて悲しくもなんともなかったから」


たまきが懸念しているのは、バイト不採用の結果だけではない。

あのとき偶然通りかかったクラスメイトに、九が西の辰炎だと知られてしまったことにこそ、心を痛めていた。

九自身は秘密にしていた覚えはないが、クラスメイトの接し方は露骨に変わった。あれほどもてはやされていた九のクラスでの立場が危ぶまれつつある。


「今日も、この間も、たまきがいてくれてよかった!」


当の本人に危機感がまるでないことが、たまきをさらに悩ませる。

クラスメイトに距離を取られても頓着しないくせに、たまきには今まで以上に懐いている。九とたまきの机の間隔は、日に日に狭まっていた。

九は今のように出し惜しみせず気持ちを伝える。君さえいればそれでいい――たまきを含む周囲には、そんな執着ボイスにも聞こえ、内心大パニック。元ヤンバレしても九の翻弄は留まることを知らない。


「やっぱ何かお返しを……肩たたき券100回分とか?」

「いらねえよ。俺は……好きで、やってることだから」

「……たまき」

「な、なんだよ」

「いつもまじでありがとう!」


無邪気に両手を上げて喜ぶ九に、たまきはこそばゆそうに頬を掻く。指先のわずかな摩擦で、頬の熱が燃え盛った。

九は紙製の箱を受け取ってすぐ、くんかくんかと行儀悪く鼻を近づける。箱にしみこんだ、深みのあるカカオの香り。


「もしかして中身チョコケーキ?」

「あ、ああ。人気だって店員が」

「最高! 俺、大好き!」

「……チョコが?」

「そう、チョコレート!」

「…………俺も」

「うめえよな、チョコ!」

「……ああ」


その場で持ち手を崩して中身を確認した九は、4つもあるケーキ、しかもそのすべてにチョコが使用されていることに興奮を示した。

早く食べたい。勉強よりもまずはこれだ。

昼食を食べたあとだというのに、九の別腹は容赦なく渇望していた。


「うち親いねえから俺らで食おうぜ!」

「えっ」


うきうきでリビングに行こうとする九に、たまきは脱いだ靴をそろえる体勢のまま制止をかけた。


「い、いないって……」

「あ、いるけどいない、って意味な。いてもいなくても変わらねえっつうか、いるだけ迷惑っつうか」

「は、はあ……」


たまきは曖昧に返事するも、心身の緊張は増していく。


(てことは今、ふたりきり……?)


玄関にはたしかに、たまきの黒い革靴の他に、使い古されたスニーカーしかなかった。

鍵の閉まった扉。充満していく、ほろ甘い空気。


「キュゥー!!」


異論を唱えるように水を差したのは、第三の声。

たまきがドキッとして目を向けば、九の足と合体した三毛猫が牙をひけらかしていた。


「っ!? い、いつからそこに……!?」


そんなところにひそんでいたなんて。あまりに九がふつうに歩いていたから、今の今まで気づかなかった。


「あっ、そっか、会うのははじめてだっけ?」


ケーキ箱を小脇に抱えた九は、空いてる手でミケの頭を撫でた。先端の黒い尻尾がしなやかに回る。


「こいつがミケ。実物のがやっぱかわいいっしょ?」

「……あ、ああ……」

「んで、ミケ。あいつがたまきだよ。仲良くな」

「お、おじゃまします……」

「キ、ゥ……ッ」


ケーキ箱の中に猫用クッキーもあることをたまきが伝えると、九はさっきよりもうれしそうに破顔した。ミケよかったなあ、と背を丸めて語りかける声色は糖分過剰で、たまきは胸を焼いた。

気安く飼い主を呼び捨てにするミケは、たまきを一瞥し、ニヤリと目を眇めた。


(……喧嘩を売られている気がする)


静かに火花を散らす一人と一匹。

その真ん中に挟まれた九は、のんきに腹の虫を鳴らした。


腹が減ってはなんとやら。

別段三者とも空腹ではなかったが、甘味の口になった九のわがままを却下できる者はここにはいない。

ミケは我先に九をキッチンへ連れて行こうとし、たまきも負けじと九の隣をキープした。


「なんかふたり仲いいな……?」

「は? どこが」

「キュ〜?」

「ほら。ちょっと嫉妬~」

「……」

「……ゥゥ」


冗談交じりにつぶやく九に、たまきもミケもなんとも言えない顔をしていた。



短い廊下の奥に広がる16畳のリビングダイニングは、必要最低限の家具で構成される。

米と牛乳とキャットフードの散らかったオープンキッチン、勉強道具しかない木製のローテーブルとスカスカのガラス棚。

丁寧な暮らしやミニマリストのそれではなく、たとえるなら夜逃げ前夜の部屋だった。

ここに家族みんなで暮らしている絵が、たまきにはすぐに思い浮かばなかった。一方で、かつて外道に堕ちていた九が育った家としては、ひどくしっくりきた。


「たまき? おーい、タマー?」

「っ、な、なに」

「お、タマで反応した」


猫みたいだといたずらに笑む九に、たまきは漠然とした不安を覚えた。

手狭なキッチンでは、手探りでピンクの箱が開かれていく。


「タマはどれ食う?」

「……た、タマって呼ぶな」


今さら訂正を入れれば、はいはい、とぞんざいな返事をされる。


「で? どうするよ」

「……俺はいい、ケーキいらねえ」

「えー?」

「九の好きにしろ」


九は二度三度しつこい聞き、しばし悩んだあと、渋々了承した。

プラスチック製の皿に、粉雪のような演出のガトーショコラを乗せる。その工程が、×2。


「んじゃあ、俺とたまき、一緒にこのうまそうなやつ食おうぜ」

「い、いや、だから、俺はいいって……」

「でも俺の好きにしていいって言ったじゃん」

「それは全部おまえが食べろって意味で……」

「俺は一緒に食いたいの!」

「……」

「それとも食べたくねえ?」

「……いや」


そんなふうに言われては断れない。何よりたまきもチョコは好物だ。せめて皿とフォークをテーブルまで運んだ。

キッチンでクッキーの袋のリボンがほどく九のそばでは、ミケが走り回っていた。


「キゥーッ!!」

「うんうんミケわかってんよ。ちょっと待ってな。クッキー、皿に出してやるから」

「キュッ、キュウ!」

「うん? クッキーじゃねえの?」


九のジーパンにマーキングするようにミケは頬や手足をすり寄せる。


「なに、今日はやけに甘えただなあ」


若い金色の猫目が溶けてなくなりそうなほど細められていく。かと思えば、たまきが手伝いに戻ると、あっちいけと言わんばかりに眼光を研いだ。

たまきは舌打ちをするすんでのところで思いとどまる。猫に腹を立てるなんて愚の骨頂だろう。それに今は客の身。冷静に、礼儀正しく、クールな男を装った。


しかし、その数分後。

付け焼き刃の皮は、他愛もなくはがれた。


「いただきまーす! ……んんっ、うまぁ! ミケはどうだクッキー、うまいか」

「キュッキュッ」

「あーだめだぞミケ。こっちは俺の。ミケにもクッキーがあんだろ?」

「キューウ!」

「かわいくねだってもだめなもんはだーめ」


目の前で九とミケが一生イチャついているせいだ。


猫なで声の会話は、たまきの蚊帳の外。九はそばにいるミケにばかりかまい、向かい側のたまきには目もくれない。

評判高いガトーショコラの風味が、無味無臭に変わっていく。

たまきは途中でついにフォークを置いてしまった。


「……いつもそうなのか」


テーブル下でちょこまかと動く、まだらに日焼けしたような小動物を、たまきは尻目に追う。その目にははっきりと不満の色が浮かんでいる。


「いひひ、いいだろー?」


(……よくねえ)


今朝手入れに励んだ、たまきの瑞々しい美貌が、ブスッと肥えた。

なぜか、ものすごく、つまらない。

向かい合って座っている今より、隣の席でいる学校のほうがまだ居心地よかった。

招かれている身の上でこんなことを思うなんて最低だろうか、とたまきは内心で自嘲する。我ながら冷静に礼儀正しくクールな男にはほど遠い。と思いきや、その不器用な憂い顔は、傍目には皮肉にもクールなイケメンに見えるにちがいなかった。


「勉強中は大丈夫なんだろうな?」

「だいじょーぶだよー。なあー?」


嫌味ったらしく突っかかれば、九は小首を傾げて語りかける。その相手はもちろんたまき、ではなく、クッキーをひときれ頬張るミケだ。

みっともなくたるんだ九の口には、ガトーショコラのカスがついていた。


「ミケは頭がいいから。いつも空気を読んでおとなしくしてくれんだ」

「空気を読んで、ねえ……?」


これみよがしにミケは九の膝に乗り、ひげをぴんと張る。今にもドヤァ……! と効果音が聞こえてきそうだ。

たまきはグギギと歯を食いしばった。そうでもしなければ悪癖の舌打ちを連発しかねなかった。


「……そ、そんなにかわいいか」

「うんかわいい」

「……大切か」

「もち。自分より大切」

「……特別に思ってんだな」

「ああ、特別の中の特別だよ!」


コールアンドレスポンス式で応えられた言葉はどれもたまきには聞きなじみがあった。

ペットの自慢話は隣の席ということもあり耳にタコができるほど聞かされている。そして同時に、今まで自分へ宛てられた言葉でもあるのだ。

けれど、そのどれもと同じようで、ちがう。ニュアンスが、たしかにちがっていた。

外道から抜け出せた理由が、暗にまざまざと伝わる。


「……好き、なのか」

「大好き!」


九は臆面もなく、間髪入れずに最上級で返す。いつの間にか器用にガトーショコラを平らげていた。

空いた両手の寂しさを埋めるようにミケを抱きかかえ、頬をすりすりする。満更でもないミケは体をびよんと預け、気持ちよさそうに鳴いた。

寒々しい部屋に花が咲く。

ひとり除け者のたまきは、肌寒さを紛らわそうとケーキをヤケ食いし始めた。


「俺にとっては、ミケだけが家族みてえなもんだから」


惚気は止まらない。

たまきは飽き飽きと最後のひとくちを口に運ぶ。喉元に詰まりを感じた。

何かが引っかかる。


「……ミケ、だけ?」


吐き出せば、九はさも涼しげにうなずいた。


「ミケが家族ってもんを教えてくれたんだと思う」


ミケに手ずからクッキーを与えながら、どこかつかみどころなくつぶやく。

たまきはもう一度室内を見渡した。ペット用品や勉強道具以外に生活感は極端に少なく、かといって清潔感がずば抜けて高いわけではない。あまり人の手に使いこまれていない、冷めた家だった。

ごくんと飲み下した口内に、苦味がにじんだ。

たまきのうつろな視線をいとわずに、九は話し続けた。


「俺んちって、いわゆるネグレクトなわけ」

「ネグレクト……」

「必要なもんだけやって、ポイって」


まあ、よくある話さ。

九は今朝見た夢を明かすように平気で笑った。両手は依然とおだやかにミケの毛並みをとかしている。


「ここは家なんかじゃなく、ゴミ箱みてえなもんかもな」


今ものらりくらり健在しているであろう九の両親は、まともに子育てをした試しがない。少なくとも、九が物心ついたときから。

長期間家を空けては、ある日忽然と帰ってきて、九がいてもおかまいなしに酒を飲んだり性行為をしたり好きに過ごし、またどこかへ行ってしまう。

ただし衣食住に困ることはなく、水も電気も、冷蔵庫には食料もあった。たまに全部腐って食えるものがないときはあったが。それでも目に見える虐待はなく、放置されるのが常だった。

逆に言えば、九にも好きにさせていたということ。学校に行こうが引きこもろうが、極端な話、犯罪をしようが干渉しない。

親にとってきっと、九は幽霊、あるいは家畜か。その程度の存在価値でしかないのだ。


九が環境の異常さに勘づき始めたのは、小学校に上がってからだった。

怖くなって担任の先生に相談すると、「今生活できているのは、お母さんやお父さんが働いてくれているからだよ」「世の中にはいろんな家庭があるから自分だけを変だと思わないで」などときれいごとの見本を並べ、親の肩ばかり持たれた。

言い分は九にも理解できる。金を払っているのは、事実、親だ。

だけど、だから何だというのか。

納得できるほど心は広くない。


(キモイよ、みんな)


当時、小学2年生だった九が、教師、ひいては大人に幻滅した瞬間だった。


「それで、グレてたのか……?」

「まあそうだな。放置されてたせいですげえ暇だったし。喧嘩すんのは楽しかったから」

「へ、へえ……」

「いっそ痛みがあったほうが、存在を認められてるような気がしねえ?」

「……」


性格の根幹は、家庭環境で養われる。

ろくでもない親に、廃れた町。ひねくれ者の爆誕にはこの上ない条件だ。

世間一般では汚名でも、九は物心ついたときからそうだったので、今さらやましさも後悔もない。さらに言えば、地元では周知の事実で、特別隠し立てる必要もなかった。


ただちょっと、いやかなり、ふつうではないだけ。

九はそれをふつうに受け入れていた。こんなにも清々しいまでに他人ごとの顔をしていられるほどに。


「でもミケを飼い始めてから考え方がガラッと変わった」


不意に呼ばれた名前に、ふさふさな猫の耳がピクリと弾む。


「健康志向っつうのかな。あんま傷つくんねえようにしようとか、いろいろ知識つけて心身を鍛えようとか。できるだけ長く一緒にいたいから」

「キュゥ!」


九の膝の上で寝ていたミケは、九の胸にぽんと肉球を押し当てる。しっぽがふわりとはためき、九の腰に抱きついた。

人と猫。言葉の領域を超え、心が通じ合っていた。


ほほえましい絵面に、たまきは静かに瞼を伏せた。

フォークの先端で、チョコレートを溶かした最後のひときれがとろける香りを放ちながらおとなしくしていた。

たまきはようやくフォークを持ち上げる。


「もちろんたまきもな!」

「え……っ」


濃密な風味が目前に迫ったとき。

フォークを持った雄々しい手に、九のかさついた手のひらが触れた。

ぽろっと落ちかけた欠片をすくいとるように、九が身を乗り出してフォークの先端ごとかぶりついた。きめ細やかな白肌がおいしそうに火照り、甘く、とびきり甘くほころんでいく。

九は上目遣いでたまきを見つめる。

ミケが何やら口うるさく叫んでいるようだが、今のたまきには何も聞こえない。


「ほんとは、真昼間にあいつらと鉢合っちまったら、ここを事件現場にでもしたかったんだけど」


いや、とんでもないことをしれっと公表した九の声は、妙にはっきり聞き取れた。

冗談か本音か見分けがつかず、怖々と聞き返す。

九は力なく眉を下げた。


「もうできねえや」


俺、獣医にならなきゃだし! と、ミケを横目に肩をすくめる。

安らいだ九の体を、ミケがリズムよく登っていく。肩まで到達すると、頬をぺろりと舐め、首の動脈を確認するように毛並みの整った頭をぐりぐりこすりつけた。

対してたまきは、フォークを曲げる勢いで肩肘を張った。


「じゃあ俺が代わりにろうか」


現役の名に恥じない剣幕に、威圧感。

ぎらつくピアスは、いつもの安全ピンを彷彿とさせる鋭利な形ではなく、洒落こんだチェーンタイプのデザインだった。

しゃらしゃら揺らめく物に猫は目がないというが、現役ヤンキーのオーラにミケは圧倒され、九の背に隠れてしまった。最強の盾、九は、案の定びくともしない。


あいつらごときにたまきの拳なんかもったいねえよ」

「……」

「うーんでもそうだなあ」


九は両腕で頬杖をつき、ノリノリで思考に興じる。


「チュウでもしたら、あいつらもビビって息の根止めっかな?」


おどけた口ぶりで、いたずらに首を軽く傾げた。

たまきの茶目がぎゅんっと超加速的に丸められていく。

ミケは渾身の大声でキュウ!! と呼び止めた。

しかし、


「……別にいいよ」


ド低音に発せられたその一言で、沈黙が落ちた。

たまきは緊張した面持ちで九の唇に焦点を当てた。

高らかに吊り上がった九の口角は、その実、左右不揃いに曲がっている。血色のよい唇は、日差しが不意に消えると、荒れ果てた紫に褪せて見えた。

内側にくすぶる毒親への反抗心が、黒煙のように漂っていた。


黒い感情には敏感なたまきは、全部ひっくるめたうえで言ったのだ。

いいよ。

それがたまきの答え。他にない、たまきの正解だった。


「……バカ」


歪だった九の口から、ふ、と吐息が漏れた。


「本気にすんな」


九は困ったように苦笑した。

たまきの広い肩幅がみるみる収縮していく。比例して、九のえくぼが深くなっていく。

地から見上げるミケは、今にもこぼれそうなつぶらな瞳をきらりと瞬かせた。そこに反射する九の表情は、1年前、ミケを飼うことに決めたときとよく似ていた。


「あ、でも、写真とか飾って自慢しとくのはありか」


ナイスアイデア。

九はすぐさまミケを連れて向かいに回りこみ、たまきの大柄な胴にどーんともたれかかった。スマホを天に掲げ、内カメに3つの異なる美顔をおさめる。


パシャリ!

パシャパシャ!

パシャシャシャシャ!!


シャッター音が絶え間なく響く。

似たような構図を何枚も連写し、満足した九は、そのうちの1枚を早速スマホのロック画面に設定した。


(玄関先にも飾ってやろうか。日めくりカレンダーにしてもいいかもしれねえ。あいつらの顔が見たい……なんて、はじめてだ)


最高の土産話ができた。

おまえらは地獄にいくだろうが、こっちは幸せにやっている、と。

写真のそばには、入学式にもらった桜の胸飾りを添えるのもいいだろう。九はつい笑みをこぼした。


隣ではたまきもいそいそとスマホを操作していた。九が覗きこむと、画面にはキメ顔したスリーショットがドアップで表示されていた。


「あ、たまきもうちの子気に入ってくれたんだ!?」

「ち、ちげえよ! てか覗くなよ!」

「じゃあなんでわざわざ拡大してんの?」

「そ、それは……九が……」

「俺?」

「な、なんでもねえ!」

「えーなんだよー!」

「なんでもねえって! ほらいい加減勉強すんぞ!」

「えーー?」


ふたりの間に揉まれたミケは、苦しそうに首を振った。


本題の勉強会は、図書室のような神聖な静寂は望まれなかったものの、ふしぎと進捗は良好だった。

時間が滝のように凄まじく流れ去る。

日が暮れてきたころ、勉強のごほうびに残りのチョコタルトとザッハトルテをぺろっといただき、会はお開きになった。

見るからにテンションの下がったたまきは、黒い革靴を履く前から、そして履いたあともうつむきがちだった。


「……おじゃましました」


玄関まで見送りに来た九とミケに、投げやりな一礼をくれると、のそのそとやけに遅く動き出す。

現実でスローモーションの仕掛けが起こるわけないのに、ドアノブが秒針のように少しずつ回っていく。


「待って、たまき」


九が一歩踏み出した。

たまきは脊髄反射で振り返る。ワックスの乾いた金髪が軽やかに舞った。

両者の視界に、影が降る。

あのたまきですら、九の姿をはっきりと捉えられなかった。

かつてたまきと肩を並べ、巷を恐怖に陥れた大物たるもの、隙だらけのふところに入りこむなんて朝飯前。本気を出した九は、いともたやすく距離を埋めた。


――ゼロ距離に。


「っ、……え……?」


一瞬のできごとだった。

気づいたときには九は身を離し、玄関の段差でたまきと同じ目線にいる。

たまきは朦朧と口の端っこに残る、淡くてやわい温度を指先でたどった。


「んじゃ、また月曜な」


キィ……バタン。


「キューーーゥウ!!!」

「九〜〜〜っ!?!?」


扉が閉まると、その両側から同音の絶叫が熱量高くひしめいた。

カラスがあわただしく空のはるか高いところへ逃げていく。


(九のバカヤロー……! 次会ったらシメる……!)


名店のケーキの味はもう思い出せなかった。



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