拝啓 フィルター越しの君へ

@ramune_24

お手紙

拝啓

フィルター越しの君へ

葉桜の季節になりました。ご機嫌おいかがですか。

そういえばあなたと出会ったあの日は入学式が終わって葉桜が見頃な丁度今日のような日でしたね。

あの頃私は入学したてなのにみんなから追いかけられて可愛いと耳にタコができるほど言われ飽き飽きしていた頃でした。ふらりと迷い込んだ教室であなたは愛おしそうにカメラを覗き込んでいましたね。

今思えばそれが私の人生での大きな3つの転機の1つでした。

あなたは私に向かって「綺麗だね」と声をかけてきましたね。私にやたら声をかけてくる人達と一緒だと思い、あなたのことが途端に嫌いになりました。そして、思いっきり顔をしかめて、死んだ魚の目であなたを睨む私を無視して、教室の写真を撮るあなたをみて「変な人」と思い、私は関わらないで生きて行こうと思いました。

なのに本当に変な風の吹き回しですね。またあなたに会ってしまったのです。

1人で中庭でこっそり私が昼食を食べていた時でしたね。

その時あなたは夢中になって曇り空にカメラを向けていたのです。びっくりしてつい声が出てしまいました。それでもあなたは夢中で写真を取り続けるものですから我慢出来なくなって「あんた何撮ってるのよ!空曇ってるじゃない」と言ってしまいました。言ってからしまったと思いましたがもう時すでに遅し、あなたはもう饒舌になって「あそこさ!!!見えない???うっっっっすらだけどさ天使の梯子あるんだよ!!!!見えない!?本当に!?!?」

と興奮して言うものだから私はあなたが指さす方をよーく見たの。うっすら雲の間から引かが差し込んでいてね、本当に綺麗だった。こんなに綺麗な景色が私は知らないだけであるんだなって初めて思ったの。それから私はあなたについて行ってたくさん知らないものを見たわ。朝焼け、雨上がり放課後の教室、昼過ぎの都心、あなたと見る1枚1枚が綺麗だった。

あなたは結局他の人と違った。いつもカメラを握りしめ風景ばかり撮っていた。私の容姿をとやかく言うこともなかった。最初のあれはなんだったんだろうと思ってたら、まさかの教卓の逆光の浴び具合の話だった時はあなたらしすぎて笑ってしまったわ。あと「フィルター越しの世界のどこがいいの??本物が目の前にあるのに」なんて言った時には「フィルター越しはさこの明るさが違うんだよ!!あの切り取る角度とか光の反射が全然違う!!そこがいい!!!」とない語彙力で精一杯喋るあなたをみて、笑ってしまったこともあるわね。あなたの方が先輩なのに愛おしい子供のようで。

あなたはずっと変わらなかった。「変な人」だった。ただ写真を取り続けていた。

周りがすっかり変わってしまい辛かった。私はそんなあなたが心地よかった。

でも私はあなたを憎んでいるわ。

卒業式の日あなたは学校で1番大きい桜の木の辺りに私を呼び出したわね。でこぼこしてて歩きにくかったのよ。

それでも期待しながら興奮して向かったわね。

"パシャ"

聞きなれた音と匂いすぐにあなただってわかったわ。

「おめでとうございます」そう言おうと思ったのにあなたは私にカメラを押し付けて「ごめん」ってだけ言って逃げてしまった。どういうおつもりだったのかしら。

あれからあなたをどれだけ憎んだことか....

なのにこんな時に限って思い出すのはあなたのこと。

そしてあなたが愛していた"フィルター越しのあの世界"は見れないけど感じることだけでもしたくてカメラを出して見たの。

暖かかった。とても暖かかったわ。

長ったらしく話してたしまいましたね。このくらいにしておきましょう。

くれぐれも長生きしてくださいね。

敬具


















「あのー先輩ーー!!昨日亡くなられたおばあさんの事なんですけど」

「え..?」

「あのおばあさん....香菜子さんですよね確か」

「ああ香菜子さんで、彼女がどうしたの?」

「遺品が出て来ましてこれカメラと宛名のない....手紙...?」

「宛名のない手紙ー!?いや宛名あるじゃない『フィルター越しの君へ』ってそれでも分からないねぇ〜誰に出したいのかっ」

「遺族の方々に確認しても『盲目であまり家も出なかったからそんな趣味ある訳間違いじゃないですか』って言われてしまって....」

「困ったわねぇ〜」

「それにこのカメラ1枚しか写真入ってないんですよ〜桜の木の写真だけ〜なんなんでしょうかねー」

「えー分かるわけないじゃないーとにかく遺品は遺族の方々に引き取ってもらうしかないわね。お願いしてきてちょうだい」

「わかりましたーてっうわ風強っ....あっ桜が入ってくる窓閉めなきゃなぁ〜」

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