第37話 不安になった時は、また僕の愛を試してください。

「あがってこない、ドレスが重い、カルロス助けてー!」


一向に池から上がってこないルイ王子に私は真っ青になった。


しかし、私は重いドレスを着ていて、着衣水泳の難しさを知っている。



そして昼間見た限り、この池は足がつくような浅さでもない。


どうして池にイヤリングを投げてとってくるように言うなど、90年代トレンディードラマのようなことをしてしまったのか。


賢いルイ王子はあのような小さなイヤリングが、真っ暗な池の中見つかるはずないと分かっているのにどうして飛び込んだのか。


愛するルイ王子が死んでしまう、私は自分の泳力を信じ意を決して池に飛び込むことにした。

「ありましたー。珠子様」


唐突に、今まで見たことのない笑顔で真っ暗な闇から顔を出したルイ王子に思わず池に落ちそうになる。

ルイ王子は私を慌てて支えてきて池からあがり、ピンクルビーのイヤリングを私に握らせてきた。


「愚かなことをしてしまい申し訳ございませんでした。ルイ王子が私のことを愛していると信用しました。私にはとてもこの真っ暗な池に飛び込む勇気がありません」


ルイ王子が死ぬかと思って、怖かった。


私は泣きそうになりながら震える手で、美しい王子様の髪についた葉っぱをとった。

愛情を試すような行動を生まれて初めてしたが、実に迷惑な行動だったと反省する。


「はぁ、はぁ。これくらいで信用して頂けたのなら良かったです。僕は珠子様を愛していますよ」


はっきり言って死んでいてもおかしくないくらい、彼は池から上がってこなかった。

息を切らしながら、私に微笑みかけてくる彼はいつもにはない色気がある。


「寒いですよね。とりあえず、私のドレスを着てください」

私はびしょ濡れのルイ王子に自分のドレスを着せようと思った。


「珠子様、いくら夜でもこのような屋外で服を脱いでは、誰に見られているか分かりませんよ。珠子様のそのようなお姿を見て良いのは僕だけです。今の季節は夜でも暖かいので、別に気にしなくても大丈夫ですよ」


私はドキッとするようなことをさらりと言ってくるルイ王子に驚く。

やはり、彼は普通の12歳ではないのだろうか。


「ルイ王子は泳ぎはどこで覚えたのですか?」


内陸の国の王族である彼が泳げるのが不思議で仕方ない。


「魚が泳いでいるのを見たことがあるのです」


優雅に微笑みながら私に語るルイ王子は、発光していてまるで月のように見えた。

月が綺麗だ、ルイ王子が綺麗だ、彼のことが好きすぎる。


そして、ルイ王子は魚ではないし、魚の泳ぎ方ができるとは思えない。

彼は正統派王子というより、惑星プリンスより出荷されたサイコパス王子だ。

溢れる魅力と同時に、ほのかな恐怖心を私にいつも与えてくる。


「ルイ王子、愛しています。2度とこのような愚かな愛の試し行動は控えます。私を嫌いにならないでください」

超美少女イザベラがやっても引くだろう行動を、39年という時を生きた大人の私がやってしまって情けない。


「不安になった時は、また僕の愛を試してください。何度でも僕は珠子様への愛を証明して見せます。池を泳ぐのは慣れたので、次はもっと早く池からあがって来られますからご安心ください。珠子様、兄上から手紙を貰っていましたが、どのようなことが書いてあるのか一緒に拝見しても宜しいですか? 」


彼が兄ルイスを誰よりも長い間支えてきたのを知っていたのに、ルイ王子が平然とした顔をしていたから勝手に心配していないと判断したことを反省した。


ルイ王子は完璧な品位をいつでも保つ方なのだ。

今まで一度だって、動揺したような姿を周囲に見せたことがない。


「はい、一緒に読んでみましょう。まさかルイス王太子殿下からお手紙を頂けるとは思いませんでした。彼は誠実で真面目な方なのですね」


私の言葉に微笑みながらルイ王子がゆっくりと頷く。

兄ルイスは真面目とは程遠い、淫猥な雰囲気を纏わされている。

しかし、実際はご丁寧にお手紙を書く男の子だったということだ。





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