第36話 私が本当に好きなら、これをとってきてください。

「ルイス王太子殿下とカルロスはどうしたのですか?」

今日は念願のフローラ様と会えるということで真夜中の対策会議を予定していた。


「兄上の衝動が抑えられない状態で、カルロスに急遽対応して貰っています」

ルイス王太子殿下は私の入学式以来部屋に篭っている。


おそらく、物語がはじまってしまって強い強制力に一人耐えていたのだ。

ルイ王子も兄ルイスに気を遣い一度も授業に出ていない。


入学式の新入生挨拶をカットしようと、入学してから一度も授業に出なくてもルイ王子の評価は変わらなかった。


兄を気を遣ってそうしているのだろう、やはり彼こそが次期国王に相応しいお方と言うものさえいた。


私はルイ王子が実は王位を狙っているのか、フローラが好きなのか、私が好きなのか全く分からなくなっていた。

私は男心が分からないが、彼は男とか女とかいうレベルではない理解不能な存在だった。


「ルイス王太子殿下の元に行きましょう」

私は入学式以来会っていない彼の元に行こうと思った。


フローラ様が珠子をモデルにして作られたキャラなら、彼に兄ルイスに愛情がなくても与えられた役割を果たすことに最善を尽くす。


「珠子様、それは危険です。おやめください」

ルイ王子が私を引き留めようと、珍しく不躾に私の手首を握ってきた。


「押し倒されても、巴投げで応戦しますよ」

私の強い口調に諦めたのか、巴投げを知っているのか手を離してきた。


「イザベラ、気が狂いそうなんだ、愛してる」


ルイス王太子の部屋を開けるなり、私を見た彼は私を骨が折れるくらい強く抱きしめてきた。

一瞬見えた彼の苦しそうで飢えたような翡翠色の瞳に私は同情した。


7年もの間、謎の強制力に苦しみ粗暴な言葉を強いられた後、最後の1年は獣のようにヒロインを求める強制力をかけられている。


「ルイス王太子殿下は、イザベラのどこが好きなのですか?」

私は苦しむ彼を抱きしめ返しながら尋ねた。


全く無言なままの彼に違和感を覚えて、彼を引き剥がして顔を見ると目を瞑って寝ていた。


「もう1週間近く、イザベラ様を求め続けて寝ていません。こちらを受け取りください。珠子様に宛てた王太子殿下からの手紙です」


カルロスの言葉に私は泣きそうになり、手紙を受け取り眠っているルイス王太子を抱きしめた。


「寝かせましょうか。ベッドに運んでください、カルロス」

私は兄が死にそうな程に苦しんでいるのを平然とした顔で見て、次のことを指示するルイ王子を怖いと思った。


「珠子様、最近不審者がアカデミー内で出たらしいので、女子寮まで送ります」


あのような衝撃的なことがあったのに、微笑みながら私にルイ王子が言ってくる。

彼を怖いと思いながらも、私はとりあえず寮まで送ってもらうことにした。


「不審者が出たとしても、カルロスならともかく子供のルイ王子には私を守れませんよね。もう、ここで良いです。私の方が強いですよ」


私は女子寮までの道のりの中間ゲートである池の前で彼の手を振り払った。

カルロスはまだ眠ってしまったルイス王太子殿下の元についてる。


「僕は愛する珠子様を、命懸けでも守りますよ」


兄が1週間も寝ていなくて倒れたのに、微笑みながら私に語りかけてくる彼を相変わらず怖いと思った。

それと同時に私は彼にどうしようもなく惹かれていて、彼は秘密を隠していると疑っている。


「月が綺麗ですね」


日本人なら知っているだろう、愛しているという意図を伝える言葉を彼に言った。

流石に私の言葉を理解しすぎている彼が、私と同じ日本から転生した人間なのではと思ったからだ。


この世界は不思議なことに異世界であるのに夜には月のようなものが見えていて、皆それを月と呼んでいた。


「今日は月が見えませんよ。でも、珠子様には見えるのでしょうか。僕はあなたのそういうところが好きです」


確かに空を見たら、満点の星空だが月らしきものは見えない。


「どうして、ルイ王子は嘘ばかりつくのですか? あなたの愛など信じられません。私が本当に好きなら、これをとってきてください」


私は衝動的に、ピンクルビーのイヤリングを真っ暗な池の中に投げた。

私はピンクサファイアとピンクルビーのイヤリングどちらをフローラ様に差しあげるか迷っていて、最終的にピンクサファイアのイヤリングを彼女に渡した。


「待ってください、ルイ王子」


ルイ王子は、迷いなく真夜中の真っ暗な池に飛び込んでしまった。

島国日本育ちの私は400メートル自由形を泳げるが、内陸のレオ国に住む王族の彼が泳げる訳がない。

私は自分の衝動的な言動と、何を考えているか分からないルイ王子の行動に頭が真っ白になった。




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