火のないところで、まだ焦げている

悠木倫

恋は練炭、あるいはベイクドショコラ

 近年、恋愛リアリティーショーが流行している。僕らは画面の中の若者たちの感情の揺らぎに自らの感情を重ね、まるで自分の恋であるかのように、その物語に没入する。けれど、それは演じられた恋だ。編集され・構成され・過剰に絢爛に美化された恋だ。僕らの日常にある


 恋は、もっと静かで、もっと不器用で、もっと説明のつかないものだ。

 それでも、僕らは映された恋の方を信じてしまう。本当の恋は、そんなに映えないからだ。緩やかに、温度を失うように。全ては、静かな自傷のように進行する。たぶん、恋はいつも、練炭のように黙って、僕らを焦がす。まるで、ベイクドショコラのように。


 でも、だからこそ、僕らは泣いてしまうのかもしれない。


 あの整いすぎた恋のなかに、自分の恋の未完成さを見てしまうから。流す涙は、演者たちのためのものではない。

 多分僕らは、自分の届かなかった愛や、誰にも言えなかった痛みについて、遅れて泣いている。

 情報化社会が僕らの情緒を吃音にした。作られたリアルが、遅れた感情に並走している。


 現実は、痛く、そして寂しい。けれど、一人で生きていくのは辛い。

 だから僕らは、画面の中の、切り取られた恋に、希求していた繋がりを見て、泣いてしまうのかもしれない。


<次回更新:気が向いたら>

更新後記:

 いつもとは少し違う、静かで真面目なエッセイたちです。

 嘘と本音のあいだで煙るような言葉たちが、

 「悠木倫」という作家の、芯にある熱を照らしてくれることを願っています。

 連載中の物語たちと、あわせて。ゆっくりと、お楽しみください。

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