火のないところで、まだ焦げている
悠木倫
恋は練炭、あるいはベイクドショコラ
近年、恋愛リアリティーショーが流行している。僕らは画面の中の若者たちの感情の揺らぎに自らの感情を重ね、まるで自分の恋であるかのように、その物語に没入する。けれど、それは演じられた恋だ。編集され・構成され・過剰に絢爛に美化された恋だ。僕らの日常にある
恋は、もっと静かで、もっと不器用で、もっと説明のつかないものだ。
それでも、僕らは映された恋の方を信じてしまう。本当の恋は、そんなに映えないからだ。緩やかに、温度を失うように。全ては、静かな自傷のように進行する。たぶん、恋はいつも、練炭のように黙って、僕らを焦がす。まるで、ベイクドショコラのように。
でも、だからこそ、僕らは泣いてしまうのかもしれない。
あの整いすぎた恋のなかに、自分の恋の未完成さを見てしまうから。流す涙は、演者たちのためのものではない。
多分僕らは、自分の届かなかった愛や、誰にも言えなかった痛みについて、遅れて泣いている。
情報化社会が僕らの情緒を吃音にした。作られたリアルが、遅れた感情に並走している。
現実は、痛く、そして寂しい。けれど、一人で生きていくのは辛い。
だから僕らは、画面の中の、切り取られた恋に、希求していた繋がりを見て、泣いてしまうのかもしれない。
<次回更新:気が向いたら>
更新後記:
いつもとは少し違う、静かで真面目なエッセイたちです。
嘘と本音のあいだで煙るような言葉たちが、
「悠木倫」という作家の、芯にある熱を照らしてくれることを願っています。
連載中の物語たちと、あわせて。ゆっくりと、お楽しみください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます