ショートショート・グーイーズ

堂場鬼院

穴を掘る男

 村のはずれに、穴を掘る男がいた。

 毎日、同じ場所でスコップを握り、ひたすら地面を掘っていた。

「こんにちは。何をしているんですか?」

 ある日、通りすがりの旅人が訊ねた。

 男はこう答えた。

「見ての通り、穴を掘っているんだ」

「なぜですか?」

「埋めるためだよ」

 男の足元には昨日、掘って埋めた跡が無数に見えている。

「いったいどういう意味があるんです?」

 旅人は眉をひそめた。

「意味があるかどうか、決めるのは誰だ?」

 男は、穏やかな声でいった。

「働いている者か、それとも、見ている者か」

 旅人は言葉に詰まってしまった。

「ここの村の人々は、俺の穴掘りに文句をいわない。ただ、何もいわずに税を払い、俺はそれをもらって穴を掘る。誰も止めない。誰も気にしない。ただそれだけだ」

 旅人は、乾いた唇を舐めて湿らせた。

「それは、仕事ですか? 遊びですか?」

「区別する必要があるか?」

 旅人はもう何もいわず、その場を後にした。


 その日の夜、村の役場に新しい記録が刻まれた。

『穴掘り補助金、次年度も継続支給決定』

 翌朝、また男は静かにスコップを振りおろしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る