異世界で出会った君と
なぎ
異世界で出会った君と
世界に平和がもたらされたその日、私たちは涙が止まらなかった。これは私たちが勇者と称えられるようになるまでの楽しく悲しい物語。
「ここ、、どこ?」
気づいたら私は草木が茂った森の中に横たわっていた。
『昨日は引越しの準備をしてたから疲れていつの間にか寝ちゃったのか』
そんなことを思いながら周りを見渡すと木陰から女の子がこちらを覗いていた。
「あのぉ、、ちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
そう聞くとその女の子は嬉しそうに私に近づいてきて
「私はクレア!16歳!史上最年少にして聖女となった大天才です!魔王を倒すべくあなたのことをこの世界に召喚しました!」
と元気よく叫んだ。
「えっ、、」
私が戸惑っていると続けて
「あなたの名前は?素敵な碧眼ね!きっと魔法使いになる素質があるのね!」
と私が返事をする間もなく続けてきたので
「私は氷華!私も16歳だから同い年ね!よろしくね!」
とクレアの話を遮るように話しかけた。
「ところでここってどこ?」
クレアの容姿やコスプレみたいな格好を見る限り日本人ではなさそうだ。
『でも日本語喋ってるんだよなぁ』
と不思議に思っていると
「ここは聖女の国ルミナです!あなたはこれから私と一緒に魔王を倒す旅に出るのです!」と自慢げに宣言した。
話を聞いていくとここは異世界で、私はクレアに召喚されてこの世界に転移してきたということがわかった。
他にもこの世界には悪い魔物が蔓延っていて日々みんなの暮らしが脅かされているそうだ。
そこで異世界から魔力の高そうな人を転移させて魔王を倒そう!という考えに至ったのだという。
しかし、私はあまり戦いに乗り気ではない…
「なんで私が戦わないといけないの?ここは私の故郷でもなんでもないんですけど。今まで安全な日本で暮らしていたのにいきなり転移させられて危険な旅に出るなんてメリットがなさすぎる。なんなら今すぐ帰りたい。」
と言いながらため息をつくとクレアはぽろぽろ泣き出してしまった。
「お願いします!あなたの力がないとこの世界を救えない!日々平和を祈りに教会にやってくる人たちを安心させてあげたいの!」
その姿を見て自分勝手な考えしかできない自分のことが恥ずかしくなった。
『この子は危険を犯してでも自分の責任を全うしようとしている。なんて優しくて眩しい子なんだろう。』
『私もこの子みたいになりたい…!!!』
「わかった。力になれるかはわからないけど一緒に行くよ。そして一緒に魔王を倒そう!」
そういうとクレアはパァっと表情を輝かせて
「ありがとうございます!これからよろしくお願いします!ヒョーカ!」
と嬉しそうに笑った。
そうして私達は魔王を倒すためのパーティーを組んだのだった。
それから私達はまず旅に出る前にルミナの中にある小さな村で魔法の練習をすることにした。
最初は魔法なんて使ったこともないし本当に使えるのかな、、なんて不安に思っていたのだがどうやら私は氷の魔力値がずば抜けて高いうえに魔力量も多いらしく魔法の使い方さえ覚えることができれば大魔法使いにだってなれてしまうらしい。
しかし一ヶ月経っても私はまだ魔法を使うことができなかった。
「ねぇ、クレア、私どうして魔法が使えないんだろう、、いっそ剣士とかにジョブチェンジしたほうがいいんじゃない?」
「それはだめ!だってこんなに高い魔力量を持っているのにもったいないよ!」
と今日もいつもと同じような会話をしていた。
正直いつも魔法を教えてくれるクレアには申し訳ないのだがクレアの説明は擬音が多すぎていまいちよくわからないのだ。
翌日
『他に魔法が使える人を探すしかないか。』
村で魔法が使える人を探していると森の中から歌声が聞こえてきた。
初めて聞く歌だった。それなのにそのきれいな歌声にひきこまれるように私は森に入っていった。
『どうしていつ魔物が出てくるかもわからない危険な森の中から歌声が聞こえてくるんだろう?』
そんな事を考えながら森に入るとそこには、木々の隙間から差し込んだ木漏れ日に照らされてキラキラ輝く一人の少女がいた。
「綺麗、、」
無意識に私はそう呟いていた。
しばらくして歌っていた少女が私に気づいたらしく、不思議そうな顔でこちらを見ている。
私はふと我に返り、焦って
「あ、あなたは誰?こんな森の中にいたら危ないよ、、!!」
と言った。すると、
「私はリリス。魔王の娘です。あなたも私のこと殺しにきたのかしら?」
そう言われて
「魔王の娘!!?」
ととても驚いた。
魔王に娘がいるなんて話聞いたこともないし正直魔法が使えない私が戦ったとしても勝てない。
本当に悪い魔物なら私はとっくに殺されててもおかしくない。
それにあんなに綺麗な歌を歌うリリスが悪い魔物なのだろうか。
「…殺さない。あなたは今まで出会った人を殺す悪い魔物たちとは違う気がする。だからあなたの話を聞かせて?」
そう聞くとリリスはフフッと笑って
「あなたは変わった人間ね。」
と優しい笑顔で微笑んでくれた。
話を聞くと、リリスは〝魔王〟と〝昔生贄として捧げられた人間〟のハーフで、魔王の血は流れているのだが種族的には人間に近い存在らしい。
人間である母親はリリスを産んだときに亡くなってしまい、直接話したことはないそうだ。
魔王である父親とは一緒に魔王城で暮らしているが、ある日から魔王の残虐な行いに違和感を覚え始めた。
『本当に人間は悪い生き物なの?私達がしてきたことは本当に正しいの?』
そう考えたリリスは自分が魔王になる前にこの世界の正しい現状を知るために旅という名の家出をしたそうだ。
しかし、自分が魔王の娘だということをオープンにしているせいで村に滞在していてもいい顔をされず、殺されそうになってしまったため森に逃げてきたという。
「…ごめんね、リリスが悪いことをしたわけじゃないのに、、、。」
やるせない気持ちでいっぱいだった。
「それに、殺されそうになるだなんて!!」
つい私はそう叫んだ
「あなたは私のことを生かそうとしてくれたのにどうして謝るの?私、今日あなたに会えてよかったわ。心の優しい子。本当にありがとう。」
そう言ってリリスは笑った。
「ねぇ、リリス、、リリスは人間の生活を見てどう思った?やっぱり魔王が正しいと思う?」
そう聞くとリリスは少し考えて
「魔王はこれまで、暴虐の限りを尽くしてきた。人間を見かければ殺してしまうし、人間の住処だって奪ってきた。」
「たしかに私は魔王の娘で、次期魔王として魔物たちを守っていく義務がある。」
そこまで言うとリリスの顔は曇って、
「でもそれってとっても苦しいことだと思う。」
「だって私は人間の生活を見てしまった、人間一人一人にそれぞれの生活があって、守るべき大切な存在がいることを知ってしまった。」
「それに、魔王の娘だと言わなかったときはみんな私のことを暖かく迎えてくれた。とっても親切で優しかった。」
リリスは1粒の涙を流した。だけどすぐに涙を拭って、何かを決心したような強い眼差しで
「そんな人達を殺してもいいなんて思えるわけない。」
「だから私は魔王が正しいとは思わない。」
「私がお父さんのことを殺して全部終わりにするよ。」
そう言った。
「でもそのときは…なんでもない!これが私の考えだよ!」
最後リリスは何かを言いかけてそこでやめた。
「分かった!それなら私達と一緒に来ない?実は私、クレアっていう同い年の女の子と魔王を倒すためのパーティーを組んでるの!」
私がそう言うとリリスは
「そうだったのね!誘ってくれてありがとう!!これからよろしくね!」
夜
「…ってことでリリスをパーティーに入れてもいいかな?」
今回のことは全部私の独断で決めてしまったからクレアが怒っていないか不安に思っていると
「いいよぉ〜!!魔王の娘とか絶対激つよだよねっ!これからよろしくねっ!」
と予想とは別にとても元気な返事が返ってきたことに私が驚いていると
「こちらこそ!パーティーに入れてくれてありがとう!これからよろしく!!」
とあっという間に2人は仲良くなっていた。
そのことに私が安心していると
「そういえばヒョーカ魔法が使える人は見つかったの?」
とクレアがお菓子を頬張りながら聞いてきた。
私はすっかり魔法が使える人を探しに行ったことを忘れていたのだ。
「忘れてた!」
と私が焦っていると
「私が教えようか?私は火属性の魔法使いだけど氷の魔法も初級程度なら使えるんだ。最初のコツさえ掴めばあとは簡単に出来るようになるよ。」
そう言ってリリスは微笑んだ。
私は2つの属性の魔法が使えることに驚いたが、この世界では種族の違うもの同士の子供は稀に2つの属性をもって生まれてくるそうだ。
そうしてリリスと魔法の練習をし初めてからしばらくたった頃
「見て!クレア!リリス!私魔法を使ってる!!」
まだ初級魔法だったけど嬉しくて、本当に嬉しくて涙が溢れてしまった。
クレアはぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでくれて、リリスもよく出来ましたと微笑んでくれた。
『こんな生活がずっと続いていけばいいのに』
私はそう思うほど幸せで楽しい充実した生活を送っていた。
しかし魔王は着々と活動領域を広げていた。
「みんなで力を合わせて頑張ればきっと勝てる!」
そう言って私たちは準備を整え1週間後に魔王を倒すための旅に出ることを決めたのだ。
翌日
朝起きるとリリスの姿が見当たらなかった。
家も村も探したけどどこにもいない。
私は嫌な予感がしてクレアを急いで起こした。
「クレア!リリスがどこにもいないの!!ひとりで魔王を倒しに行ったのかもしれない!」
そう言うとクレアは飛び起きた
「私たちも行こう!リリスを1人になんてできないよ!!」
「うん!」
私たちは急いで旅の準備をし、魔王城へと向かった。
『なんでリリスは私たちに何も言わずに行ってしまったの?』
どれだけ考えても分からない。
そうして私たちは魔王城に到着した。
私たちは魔王城に到着するまで不自然な程に1回も魔物と出会っていない。
『リリスが到着するまでに全部倒したってこと?』
そんなことを考えながら私たちは魔王城の中へと走った。
そこで見たのは魔王を炎で焼き尽くすリリスの姿。
私はリリスの無事を確認したからかほっとしてリリスに声をかけた。
「リリス!無事でよかった!!どうして先に行ってしまったの?」
返事は無い。
「リリス?」
もう一度話しかけると
「危ない!避けて!!」
クレアが叫んだ。
一瞬何が起こったのか自分でも理解できない。
気づいたら私は魔王城の近くの森で隠れるようにクレアに回復魔法をかけて貰っていた。
『何が起こったの?リリスは?私は誰に攻撃をされたの?』
理解できない。
理解したくない。
「ヒョーカ、、あれはもうリリスではなかった…きっとリリスはああなってしまうってわかってたから私たちを置いていったのね」
クレアが何を言っているのか分からない。
分かりたくない。
「リリスじゃないってどういうこと?魔王を倒していたのはリリスだったじゃない!!」
「リリスが教えてくれたの。最後の力を振り絞って、、そして私たちをこの森に逃がしてくれたの、、」
「魔王も昔は優しいお父さんだったんだって、、でもおじいさんが無くなってしまったあと、魔王となったお父さんは先代魔王の霊に取りつかれて今みたいな残虐な行いをするようになったって、、」
「だから、、自分もそうなってしまうことがわかってたから…」
そう話しながらクレアはぼろぼろと泣き始めてしまった
「リリスに、、頼まれた、の」
「私、を、、殺して欲しい、って…」
「でも私そんなことできないよぉ…なん、、で、リリスは私の大切な仲間なのに、、」
私も気づいたらぼろぼろ泣いてしまっていた。
悲しい、、苦しい、、辛い、、
異世界に来てできた私の大切な大切な友達、、
「殺すなんて無理だよぉ、、、」
そうして私たちは二人で涙がかれてしまうくらい泣いた。
「リリスの姿で悪逆非道な行いなんて絶対にさせない。リリスの最後のお願い叶えてあげなくちゃ、、」
私たちは立ち上がった。
魔王城の扉を開ける。
そこにはリリスの姿をした魔王がいた。
「リリス、私たちが救ってあげる」
私は自分が使える中で一番強い氷魔法をリリスに向けてぶつけた。
リリスは避ける。
クレアがリリスに向かって光魔法を絶え間なく浴びせ続け、私は氷魔法をぶつけ続ける。
本来なら魔力が切れてしまいこんな戦いはできないそうだが、私の魔力量が多いからこそできる戦い方だ。
だが、リリスは火の魔法使い。
私が出した氷も溶かされてしまう。
でも絶対に負けられない。
攻め合いの戦いが続く中、私もまだ使ったことの無い上級よりもさらに上の魔法の存在を思い出した。
本で読んだことしかないその魔法。
「氷の精霊よ。世界を悪から救うべく、世界に散らばりし水を今ここに集めたまえ。アイスフルレイン!」
リリスは頭上から無数に降ってくる矢のように尖った氷の雨を避けることが出来なかった。
そして私も魔力切れと大きな魔法を使った反動で倒れてしまった。
数日後
「ううーん、、ここどこ?」
気づくと私はクレアと暮らす家に帰ってきていた。
クレアから聞いた話だとあの後リリスは亡くなり、魔王の後継者が居なくなったことによってさまよう先代の霊をクレアの光魔法で浄化したそうだ。
そして私たちは魔王を倒した功績が称えられ勇者の称号を貰った。
「ねね、ヒョーカ。実はねこっそりリリスの遺体を持ち帰ってお墓を作ったの。一緒にお墓参りに行かない?」
そうクレアが言った。
魔王の遺体を持ち帰るなんて普通なら絶対にできないが今回は倒した魔王が二人いたためバレずにリリスの遺体を連れて帰って来れたのだそうだ。
私たちはリリスの好きな果物を沢山持ってお墓参りに行くことにした。
『この世界に転移してきたこと、最初こそ辛かったりもしたけどクレアやリリスと出会う事が出来て本当に良かった。リリスもきっと空の上から見ててくれてるよね。』
世界に平和がもたらされたその日、私は自らの手で仲間を殺した。これは誰も知らない私たちだけの物語。
異世界で出会った君と なぎ @kanon0717
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