緑龜

卵の割り方

 業者から卵を受け取った。という事は卵を使わなくてはならない。全く、いつも忘れかけた頃に届くんだからめんどくさい。では、どうやって使おうか。とりあえず割るのがセオリーだろう。私は台所に卵を持っていき割るのにちょうどいい道具を探した。しかしまあ、そういう道具は欲しくない時に嫌という程目につき欲しいときにふっと消えてしまう。これもめんどくさい。この前はどうやって割ったんだっけ。思い出せない。しばらく探しても見つからないので少し休むことにした。その時ほとんど無意識に卵を居間に持っていった。椅子に座って見てみると卵は驚くほど奇麗な色と形をしている。何がこの卵を作り出すのだろう。これに関しては思い出せないのではなくそもそも知らない。知ろうと思ったこともない。しかし一度気になったことを忘れ去るのは難しい。私はいろいろ考えてみた。白い卵の原型があってそれに色を塗るのだろうか。それとも液体を型に流し込んでそれを固めるのだろうか。いずれもあまり現実的ではない気がする。ではどうやって作るのだろうか。とうとう私一人の力ではどうすることもできない。友人に電話をかけようか。しかし相手は卵の事なんて考えたくないかもしれない。それどころではないかもしれない。迷惑かもしれない。電話をかけるのはやめよう。

 すっかり忘れていた。卵を割らなくてはならない。しかしやはり卵を割るのに適当な道具は見つからない。もしかしたら捨ててしまったのかもしれない。もう卵の事なんて考えられないように。

 卵が届いてからかなり経った。もうそろそろ時間切れだろう。その前に必ず卵を消費しなければならない。それが決まりなのだ。しかしそれは難しそうだ。いかなる手段も思いついていない。今に日が暮れる。本当に急がなくてはならない。急がなくては。

 結局卵は割れなかった。しかし卵がどうやってできるのかは分かった。卵は時間が過ぎると周りのものを卵に変えていくのだ。そうしてしばらくすると業者が卵を取りに来る。卵はこうやって増えるらしい。あなたも卵になったらどうだろうか。中は温かいし、殻が頑丈だから身の心配をする必要もない。

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