第10話 『新たな予感、広がる波紋』

 佐々木梓の自宅で、下着姿でのマッサージを終えてから数日後。西山和樹の心は、未だあの日の余韻から抜け出せずにいた。梓のきめ細やかな肌の感触、甘い吐息、そして和樹の指先から感じ取れた、性的快感の萌芽。あれは単なる「リラクゼーション」ではなかった。和樹の脳裏には、梓の潤んだ瞳や、熱を帯びた頬が焼き付いて離れない。同時に、彼女が口にした「和樹君って、私たち女子の身体のこと、すごくよく分かってるよね」という言葉が、和樹の新たな自己認識として、胸に刻み込まれていた。


 和樹は、自分が女子たちの身体に触れることで、彼女たちが深い安堵と快感を得ていることを、はっきりと自覚していた。そして、その行為が、単なる友人関係ではありえない、特別な「絆」を生み出していることも。咲良への片思いという揺るぎない感情がありながらも、他の女子たちとの間に芽生えたこの新しい関係性は、和樹の心に複雑な波紋を広げていた。


 放課後、和樹は部活を終え、バレー部の部室で着替えていた。最近は、部活終わりに女子たちからのマッサージ依頼が増えており、和樹はほとんど毎日、誰かしらの体を癒やしていた。

 部室を出ると、廊下で小林遥が待っていた。彼女はテニスバッグを肩にかけ、和樹を見つけると、少し恥ずかしそうに微笑んだ。

 「和樹くん、今、ちょっといいかな?」

 遥は先日、運動着を脱いでブラジャー姿でマッサージを受けたばかりだ。あの時の、彼女の肌の柔らかさ、そして淡いラベンダー色のブラジャーの感触が、和樹の記憶に鮮明に残っていた。

 「ああ、大丈夫だけど。どうした?」

 「あのね、この間、和樹くんにマッサージしてもらったの、本当に体が軽くなって……。それで、もしよかったら、今度は私も、もっとじっくりお願いしてもいいかなって……」

 遥の言葉は、以前よりもずっと積極的で、その瞳には明確な期待が宿っていた。彼女の視線が、和樹の心の奥底を探るように、真っ直ぐに注がれる。それは、マッサージによる身体的な癒しだけでなく、和樹とのより深い接触を求めているかのようだった。

 「じっくり、か……」

 和樹は、先日の梓との経験が脳裏をよぎった。プライベートな空間で、下着姿でのマッサージ。遥もまた、同じような状況を求めているのだろうか。

 「うん!私、和樹くんのマッサージが一番効くんだもん。それに、和樹くんなら、安心して身体を任せられるから」

 遥の言葉には、和樹への確かな信頼と、そして、彼だからこそ許せる親密な関係を求める気持ちが込められていた。和樹は遥の真剣な眼差しに、抗うことはできなかった。

 「わかった。でも、空き教室だと時間の制限もあるし、人目も気になるだろ?今度、週末にでも、どこか落ち着ける場所で、ゆっくり時間を作ろうか」

 和樹の言葉に、遥の顔がパッと明るくなった。

 「本当!?ありがとう、和樹くん!嬉しい!」

 遥は満面の笑みを浮かべ、和樹の手を両手で包み込むように握った。彼女の手は小さく、温かかった。その感触が、和樹の心に新たな高揚感をもたらす。


 翌日の昼休み。和樹が自席で弁当を食べていると、咲良の友人たちが集まって、何やらひそひそ話をしているのが聞こえてきた。

 「ねえ、昨日さ、遥が和樹くんにマッサージお願いしてたの見た?」

 山本結衣が小さな声で尋ねた。

 「うん、見た見た!なんか、いつもより真剣な顔してたよね?」と高橋梨花。

 佐々木梓が、意味ありげに微笑んだ。

 「遥も、和樹君のマッサージの『真髄』に気づいちゃったのかもね」

 梓の言葉に、女子たちが一斉に顔を見合わせた。

 「真髄って何?梓、なんか知ってるの?」と伊藤楓が前のめりになる。

 梓は楽しそうに首を振った。

 「さあ?それは、自分で和樹君にマッサージしてもらってみたら、わかるんじゃない?」

 女子たちの間で、和樹のマッサージに対する好奇心と、秘められた期待が、波紋のように広がっていくのが分かった。和樹は、彼らの会話を聞きながら、知らず知らずのうちに、自分が女子たちの間で、単なる「便利な男子」ではない、ある種の「特別な存在」になりつつあることを感じていた。それは、咲良への片思いという軸は揺るがないものの、彼の周りの世界が、以前とは全く違う色を帯び始めていることを示唆していた。


 和樹は、自分の手のひらを見つめた。この手が、これから彼女たちの身体を、そして心を、どのように癒やし、満たしていくのだろうか。そして、この関係の先に、どのような未来が待っているのだろうか。彼の胸の内には、甘い予感と、まだ見ぬ展開への期待が、静かに膨らんでいた。

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