「人生」について考えさせられる、静かな情緒に満ちた物語でした。
公園にある一本の木。その木の瘤の中からは、なぜか不思議な蝉の声のようなものが響いてくる。
しかし、本物の蝉ではなさそう。夏ではない季節でも、「それ」は蝉の鳴きまねのようなものを続けているから。
やがて、どんどん年月は流れていく。主人公は作家志望だったが、なかなか前に進むことができない日々を送る。
それでも彼の人生には徐々に変化が訪れていき、更に月日は流れることに……。
「不思議なもの」を横目に見つつ、何十年という人生を送って行く姿がとても心に沁みました。
それは「怪異」や「神秘」の類だったのかもしれないけれど、人に危害を及ぼすようなものではない。
ただ、じっと心の片隅に残り続け、何十年という長い時間をかけて一つの形を取ろうとする。
蝉が七年も土の中で過ごすのと同じく、「それ」も何十年と瘤の中で過ごしたのかもしれない。
静かな情緒と共に、「悠久」な時の流れも感じさせられる。「人生」というものの数奇さや美しさも同時に描き出されているようで、とても美しい物語を読んだな、と思わされました。