レコード・オブ・リグレット
shion
episode1 雪の日に、君を置いて
足元に、シャリ…と雪を踏む音が広がる。
結月は、石畳の上に立っていた。
風が冷たく頬を撫でる。空には灰色の雲がかかり、どこか遠くでオルゴールのような音がかすかに鳴っている。
その音に導かれるように、結月は歩き出す。
小さな路地を抜けた先で、ふいに誰かのすすり泣く声が聞こえた。
「……ひっく……おねえ、ちゃん……」
声の方に目をやると、そこには赤いマフラーを巻いた女の子が一人、道の隅にしゃがみ込んでいた。
手には小さな箱──割れたオルゴール。
周囲には誰もいない。まるで、世界にその子だけが取り残されたかのように。
結月はそっとしゃがみ込み、声をかけた。
「大丈夫? ……どうしたの?」
少女は、涙で濡れた顔を上げた。
その瞳には怯えと後悔、そして何か言いかけた言葉が詰まっていた。
「わたし……おねえちゃんのあと、追いかけようとしたの。
でも、見えなくなって……、道路、こわかった……。でも……プレゼント、わたしたかったのに……」
震える声で、少女は話す。
結月は、思わず少女の頭に手を置いた。
──なぜだろう。
この景色、この子の涙、この赤いマフラー。
何か……胸の奥がざわつく。
「君は……悪くないよ。
きっと、お姉ちゃんも、君の気持ちをちゃんとわかってたと思う」
そう言った瞬間、少女の手の中のオルゴールが静かに音を鳴らし始めた。
壊れていたはずの箱から、小さな、けれど確かな旋律が流れる。
少女は微笑んだ。
「ありがとう……」
そして、白い雪のように、そっとその場から消えていった。
⸻
結月はしばらくその場に立ち尽くしていた。
どこかで聞いたことのあるメロディ。
どこかで見たことのある、赤いマフラー。
けれど、思い出せない。
夢は静かに閉じ、現実へと戻っていく。
ただ、胸の奥に、氷のような違和感だけが残された。
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