第4話 パラレル4 犬のフン

# 犬のフン


*これはフィクションです。*


俺の名前は青澤影苦労。親が「影で苦労できる人間に」と名付けたらしいが、正直言って迷惑だ。もっと普通の名前が良かった。カゲクロウなんて、まるで怪談の主人公みたいじゃないか。


今年で58歳。漫画家志望のフリーター。いや、もはや「志望」と言うには歳を取りすぎた。両親を最近亡くし、おばの遺した年金と両親の年金で何とか生活している。ダメ人間の極みだ。


ADHDの診断も受けている。集中力が続かず、漫画も描けない日々。最近カクヨムに「ノッペラボウの女体化」をテーマにした小説を投稿したが、全く人気が出なかった。次の題材に悩んでいた矢先、奇妙な出来事が起きた。


---


「なんだこれ?」


家の前に犬のフンがあった。普通なら「ああ、誰かの飼い犬のものか」で終わる話だが、この地域には犬を飼っている家はない。犬の散歩コースでもない。なのになぜ?


翌日も確認したが、犬が通った形跡はなく、飼い主らしき人も現れない。不思議だ。


「これを題材にカクヨムに投稿できないかな…」


暇つぶしに、この謎を解明しようと思い立った。


---


まず近所を調査した。本当に犬を飼っている家がないか確認するためだ。


「すみません、この辺りで犬を飼っているお宅はありますか?」


「いいえ、うちの地区では飼っていないわよ。アレルギーの人が多いから、自治会で決まっているの」


やはりそうか。では、なぜ犬のフンが?


次に、防犯カメラを設置した。安物だが、夜間も撮影できるもの。これで犯人が分かるはずだ。


三日後、カメラを確認すると…何も映っていなかった。フンだけが増えていた。


「おかしい…」


---


一週間経過。毎日のように犬のフンが現れるが、犬の姿も人の姿も映らない。


「幽霊犬か?」と冗談めかして考えたが、さすがにそれはないだろう。


ある日、近所の中学生が下校する姿を見かけた。彼らが何か知っているかもしれない。


「すまないが、ちょっといいか?この辺りで犬を見かけなかったか?」


「犬?見てないですよ。でも…」


少年は言いよどんだ。


「でも?」


「夜、変な人が歩いてるって噂はあります。袋を持って」


手がかりだ。その夜、俺は待ち構えた。


---


午前2時。物音がして目が覚めた。窓から外を見ると、黒い影が動いている。


慎重に外に出ると、中年の男が何かを地面に置いていた。


「おい!」


男は驚いて振り向いた。見覚えのある顔だ。


「山下さん?」


隣町に住む元同僚だった。彼は動揺して言葉を詰まらせた。


「あ、青澤さん…その…」


「なぜ犬のフンを置いていくんだ?」


彼は肩を落とした。


「実は…うちの犬のフンなんです。捨てる場所がなくて…」


「捨てる場所がない?」


「うちのマンション、ペット禁止なんです。でも娘がどうしても犬が欲しいと言って…内緒で飼っているんです。ゴミ捨て場に捨てると管理人にバレるから…」


なんとも情けない理由だった。


---


その後、山下さんには他の処理方法を教えた。彼は恥じ入りながらも感謝して帰っていった。


謎は解けた。単純な答えだった。犬を飼えない人が、犬を飼っていた。そして証拠を隠すために、他所に捨てに来ていたのだ。


この経験から、「秘密の犬」というタイトルで小説を書いた。意外にも好評で、カクヨムでは前作より多くの読者がついた。


親が名付けた「影で苦労」という名前。皮肉にも、他人の影の苦労を見つけることで、俺は少し前に進めた気がする。


秋には再就職したいと思っているが、もう少しだけ、この「謎解き」の道を歩いてみようと思う。


人生、いつ何が転機になるか分からない。犬のフンひとつで、新たな道が開けるなんて。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る