第6話 従者は家を出された。
ラモンがふと振り向くと、ルシアはいつの間にか寝ていた。
馬車に乗った後の事は、今後の予定を反芻していたので分からないが、乗る前は何やら難しい顔をしていたので、何かあるのではないかと少し不安になってしまう。
が、ルシアはいつもこんな風なので然程心配は要らないだろう。
最近はそうでもなかったが、聖女としての仕事が始まったばかりの頃は毎日、意気消沈しながら城に帰ってきてはベットに飛び込んでいた。
窓の外を流れる景色を見る。道の脇に等間隔に植えられた木が過ぎ去って行く。延々と続くようなその景色に飽きが来て、ラモンも瞼を閉じた。
ラモンは孤児院の出だった。ある日の玄関に、当時1歳だったラモンが捨て置かれていたそうだ。
孤児院での生活は楽ではなかったが、苦でもなかった。子ども達で家事の分担をするので疲れることは疲れるのだが、その分彼らと仲良くやれた。
ラモンがいた孤児院は比較的田舎の方にあって、毎年子ども達皆で、春には花冠を編み、夏には川で遊び、秋には果物を採り、冬には雪遊びをした。
たくさんの”家族”と自然豊かな”家”。死ぬまでとはいかずとも、職に就くまではここで過ごすのだろうと思っていた。
それが、10歳の時、終わった。
その日、ラモンはいつも通り洗濯を終え、廊下を歩いていた。
ふと応接室を見ると人の話し声がするのに気がついた。その中に自分の名前が出てきているのに驚き、ドアの前から耳をそばだてる。
話しているのは院長と、もう一人の男。院長の口調から、男は彼よりも高位なようだった。
その話の中から、「くじ引き」だとか「聖女」だとか「従者」だとかと聞こえた。
そこでラモンはその年見つかった『聖女』の従者にされるのだと理解した。
聖女が決まると同時に孤児院から従者がくじ引きで選ばれる、というのはこの国の子ども達——特に孤児院では有名な話だった。だから、少し前に聖女が見つかった時、ラモンの周りは皆、自身が選ばれる確率など甚だ低いと知りながらも浮き足立っていた。
ラモンは神を信じていなかった。
孤児院での生活は楽しかったが、幼いラモンを捨てた、母だか父だかに嫌忌が無いかと問われればそんな事はなかった。街に出て、親子連れを見るたびに自分は逸脱しているのだと感じた。
——両手を親に繋がれ、高く笑う声。羨ましい。空しい。
どうやら、それが次は聖女の慈善事業の商材にされるらしい。思わず乾いた笑いが漏れた。
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