ルシアは王との謁見を終え自室に戻るとさっさと荷造りを始めた。

　出立に持って行く物を選別する。

　とはいえ、今まではずっと聖女として城にいたので、自由の身になった後で役に立ちそうなものは服と初期に貰った貢物のアクセサリーくらいだった。

　カバン一つに収まった自身の命綱をルシアが満足げに見ていると自室の扉が開いた。

　ルシアの部屋の戸をノックもせずに開けるのは、城でただ一人。

　見ると、扉の隙間からオレンジがかった瞳をひょこりと覗かせる従者——ラモンの姿があった。

「聖女様。支度、終わりました？ぱっと見足りなさそうですけど。」

　ルシアのカバンに目を向けた彼が言った。

　その口ぶりからして、ルシアが追放されたのも、その行き先も知っているのだろう。

「ううん、これで全部。もう出るところ。」

「そうですか、じゃあ行きましょう。」

　そう言ってラモンはルシアを先導する。

　自室を出、立ち止まって扉を振り返る。

　城の扉なのでいつまで経っても新品同様綺麗だが、しっかりと五年分の思い入れを感じる。

　特に、人々に白い目で見られるようになってからは殊更入り浸っていた部屋だった。

　ルシアが感傷に浸る間を待ち、ラモンがまた先導を始めた。どうやら玄関まで送ってくれるようだ。

　ルシアは廊下を歩きながら今までを思い返す。

　ラモンはルシアが城に入ってすぐ、一番最初につけられた従者だった。

　ラモンが十歳、ルシアが十二歳の時だった。

　それまで、これといって同年代と触れ合って来なかったルシアの、初めての友達だった。

　初対面はルシアの自室で行われた。

　聖女であるルシアに緊張しつつも、時折朗らかにはにかみながら自己紹介をしてくれた。

　正直言ってしまうと、顔もルシアの好みで、少し伸ばした黒髪に、茶色く焦げた肌とオレンジがかった茶色の瞳が映えていた。

　いい子そうだな、とルシアは思った。

　ラモンは護衛も兼ねているようで、その後は常に行動を共にした。

　そうすると、だんだん化けの皮が剥がれてきた。

　庭園に散歩に行くと毎回、剣に見立てた木の枝で戦わされた。

　武芸を修めているラモンとルシアの力量差は歴然だった。ルシアは毎回ボコボコにされた。

　ルシアが街に買い物に出ると、毎回ラモンの買った物を持たされた。しかもそれらは殆どラモンの欲しい物でなく、ルシアに持たせるためだけに買われた物だった。

　クソ野郎だな、とルシアは思った。

　そんなクソ野郎ともここで今生の別れ。

　そう思うと少し寂しく感じてしまった。