伝説の歌姫のお話
昔々というほどでもないほどほどの昔、とある世界に、一人のエルフと、一匹のサキュバスがおりましたとさ。
エルフの方は、まるでお屋敷に仕える給仕とでもいうようにきちんとしたメイド服で身を包んでおり、その綺麗な様相から、さぞかし高い給金をもらっているのだろうと思わせるの。
ですが、それと相反するように、そのものの顔はまるで死人のように頬がこけておりました。
その目は、まるで凶暴な野獣のごとく、ジト目で斜め四十五度を睨みつけておられます。
もう一人は、銀髪ツインテールに身を包み、この世界でいうところの中学生女子・・・いわゆるJCと同じ背丈をした小柄な少女。
その背格好を今風な感じに伝えたのは、この少女の身なりが、ファンタジーな世界には存在しないかもしれない、Tシャツとデニムのハーフパンツという、まぁ、あまりにも世界観にミスマッチな服装をしていたからでございます。
そして、何故なのでしょうか?この少女もまた、メイド服の少女と同じく、野獣のような感じに斜め四十五度を睨みつけております。
その姿を見るだけで、純粋無垢な心を持っている私としては、心痛む気持ちでいっぱいになってしまうのでした。
サキュバスの少女が、そんな物語の導入に何か思うところがあったのか、若干恨めし気に、
「ナッツ・・・どうしてお金・・・なくなるの・・・?」
不服な感情を隠そうともせず、問答のような問いをメイドに課すのでございました。
再度、その反抗的な物言いに、私は不服を申し上げたい気持ちでいっぱいになるのでございます。
「ミフユ、それはね、うんこ・・・もとい、マスターと私たちが使うからですよ。」
残酷かな、使ったお金は稼ぐことでしか戻ってこない。この世の心理・・・あれ?今、このメイドさん・・・誰かの悪口を言おうとしていませんでしたか?
うんざりした顔で悪魔が答えます。
「ミフユ・・・もう山菜取りは・・・・いやだ。」
「もう最新版の山菜図鑑を図書館から借りてしまいましたけどね・・・」
「しょぼん・・・。」
サキュバスさん、少しぐらいこちらの肩を持ってもらっても、よろしくってよ?
恨めしげな顔して悪魔が言います。
「これも、ますたーの曲が全くもって売れないのが・・・悪い。」
私は、その言葉に強く遺憾の念を覚えざるを得ませんでした。
人生とは、失敗の連続なのです。失敗するごとに人は大きくなっていく。私はまたこの失敗を糧にさらに大きく成長したことでしょう!
「まぁ、マスター全くもって宣伝しないですからねぇ~。」
・・・すまんかった。
「あいつは・・・もう少し・・・マーケティング・・・勉強しろ・・・。」
正直・・・すまんかった。
「まぁ・・・あの人、変わり者ですから・・・・。」
・・・すまんかった。
「「はぁ。」」
・・・悲しい・・・しょぼぼぼん。
少女たちは、目を合わせると、それだけで、三ページはかけてしまいそうなほどの重い・・・重いため息をおつきになるのでございます。
「今回の依頼・・・どこ・・・?」
気を取り直して悪魔は問います。
「えーっとですね、実は今回の依頼、私もまだちゃんと目を通してなくてですね・・・・うんこ・・・もとい、マスターがどうしても受けてっていうから受けたんですけど・・・えーっと・・・ん?・・・・何だこれっ?」
「・・・・・どしたの?」
メイドは、何とも言いずらい表情を浮かべながら、
「あ・・・いや・・・なんか・・・歌姫を救ってほしい云云かんぬんとかいてあるん・・・ですけど・・・。」
「うた・・・ひめ・・・?」
「・・・らしいです・・・。」
「・・・ついに・・・ますたー・・・こわれたか・・・。」
「いや・・・どうなんでしょ・・・うーん・・・」
―もとからねじ・・・はずれてますし―
メイドは考えるのですが、パッと笑顔を見せると、
「分かりませんっ!!」
そう結論付けました。
「まあ、行ってみればわかることですしっ!」
「・・・結局。」
そんな感じで談笑(?)に花咲かせていると、二人はとある町にたどり着きました。
「はえー、この町はだいぶ文化が発展しているみたいですねっ!!」
「私たちの世界と・・・似てる・・・。」
「そうですねー。」
きらびやかなネオンの光と、近代的な乗り物。
その世界のありようは、どこか現代の日本を連想させる・・・そんな外観をしていました。
「とりあえず・・・依頼主のとこ・・・行こっ?」
「そうですね、行ってみますかっ!」
二人がたどり着いたのは、とある一軒家。
出てきた人は、ぱっと見でヲタクに精通している・・・そんな風貌をしていました。
「おおっ!!本当にお二人は存在していたのでござるなっ!!」
「ご依頼主さんですね?この度はご依頼ありがとうございますっ!!」
「ささっ、こんなとこで立ち話もなんでござる、どうぞ中に入って下されっ!」
入った瞬間に目に入ってくるのは、アイドルのポスターやアニメのフィギュアのなどの数々。
「どうあがいても・・・ヲタク部屋。」
「すっっっごい量ですねっ(汗)」
「いやいや、これ拙者の持っているコレクションのほんの一部。大部分は他の家に保管してあるのでござるよ。」
「「金持ち!!」」
一拍
「依頼内容・・・教えて?」
座り直すヲタク。
「そうでござるな・・・ナツカ殿とミフユ殿には、こちらの映像を見ていただきたいのでござる・・・」
テレビ画面に映し出される一人の歌姫。
煌びやかなダンスと、人を虜にする笑顔が、音楽にのせて彩られます。その者は、他の物にはない輝きを持っていました。
「・・・はえ~~~かわいいですっ!!」
「・・・ぽっ」
「すごい歌手ですねっ?」
「さよう、この国を代表する歌姫、レナ様でござる!!」
「お若いのにっダンスも歌も上手ですねっ!!」
フルフルと頭を振るヲタク。
「レナ様は今年721歳で・・・ござる・・・」
「・・・物凄く・・・ばばぁ・・・。」
「こらっミフユ!・・・もしかして・・・人間じゃないとか・・・?」
「正確には・・・分かっていないのでござるが・・・精霊と人間のハーフだと言われているのでござる・・・ただ・・・・・・.」
そこでヲタクは口を閉ざした。
「・・・?」
悪魔が口を開く。
「よく見たら・・・透けてる・・・。」
「そう・・・レナ様は・・・自身の存在が・・・・消えかけているのでござるよ・・・。」
ですが、
「それって・・・。」
「・・・。」
ヲタクは口をすぐには開きません。
悲しそうに・・・画面を見ています。
消えそうな歌姫は・・・自分の命を燃やして目の前の誰かのために歌っています。
「正直・・・ファンとしていつまでもレナ様を見ていたいのでござる・・・でも、もう・・・レナ様は身も心も・・・ぼろぼろ・・・そんなとき、レナ様言ったのでござるよ・・・最後に自分を負かすような・・・そんなアーティストに会ってみたって・・・・・・」
一拍
「歌姫がファンのために動くように、拙者たちファンもまた、レナ様の最期の望みを・・・かなえてあげたいので・・・ござるよ・・・。」
一拍
「ナツカ殿、ミフユ殿、どうか、レナ様に、歌姫としての引導を、渡していただけないでござろうか・・・?」
ヲタクは真剣な目でそう言いました。
そんな願いを断ることなんてできるわけもなく・・・
「分かりました・・・・そのご依頼・・・私がお引き受けいたします・・・。伝説の歌姫に引導を渡してきますっ!!」
「ナツカ殿・・・」
「・・・それで、私は一体・・・何をすればよいのでしょうか?」」
「ナツカ殿には・・・」
・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・
「アイドルコンテストに出ていただくでござるっ!!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
―時は移り―
「今宵もやって参りました!!アイドルNO1決定戦っ!今日も数多くのアイドルがこのステージの上に集結しておりますっ!!」
一拍
「今宵も司会は私ロミと・・・」
「レミでお送りいたしますっ!!」
―うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!―
「それでは、今回の出場者の紹介からだっ!!!まず初めに、新人アイドルシーナちゃん!」
「頑張りますっ!!」
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
「続いて・・・ケモ耳アイドル・・・サラちゃん!!」
「がおーーーっ!!」
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
次々とアイドルたちが紹介されていきます・・・ですが、その次に紹介されたものだけは・・・他とは違っています。
「そして今回はっ、番組10000回目を記念して!長特大のスペシャルゲストを呼んでおります!!!」
ざわつく場内、
「レナ様の登場だぁ―――!!!」
「「「「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」」」
「レナ様ーーーーーーーー!!!レナ様――――――――――!!!」
「こっち見てー―――――――――――――――――――!!!」
その歌姫の登場と共に、圧倒的な歓声がステージを覆いました。
それだけでその者が他の者と一線を画していることが分かってしまいます。透き通るような肌。自然で人の目を引き付ける笑顔。均整の取れすぎた顔立ち。そして・・・他の人にはない、アーティストとしての圧倒的なオーラ。その優し気な目にはその人の負けなど微塵も感じさせません。
「この番組が生み出した、巨匠。過去の百連勝記録は、未だ破られておりませんっ!!!!まさに生きる伝説。10000回を記念して、今一度アイドルとして、本日は参加していただきますっ!!!」
場内に轟く黄色い叫び。
観衆どころか、敵対関係にあるはずの他のアイドルたちでさえ、うっとりとした表情でその人を見ています。
振る舞い、喋る内容、その一挙一動にみんなの注目が集まり、皆が熱に侵されていく・・・。
その一瞬でそのステージがその人だけのものになる・・・
だから・・・・
今日もその歌姫は、孤独なのでした・・・。
―その後も紹介が続き・・・―
「本日も総勢40名のアイドルの中から、NO1アイドルが選ばれますっ!!栄光に輝くのはいったい誰なのかっ!!まずはこちらから参りましょう!!」
『水着勝負』
「この勝負では、アイドルたちに水着を着てもらい、その美しさ、立ち振る舞いで勝負をしていただきますっ!!」
「まあ、アイドルの基本ですねっ!」
「それでは、やって参りましょー―!!」
そう言って、水着を着たアイドルたちが順に舞台に上がっていく。
舞台袖では、
「はわわーっどうしましょ!!水着は、は・・・恥ずかしいですっ!!」
「大丈夫でござるナツカ殿!拙者の目から見てもナツカ殿は、レナ様にも負けておらんでござるっ!!さすがエルフ!!」
「はにゃっ!!なぜ私がエルフだとっ!?」
「ふっ、ヲタクをなめてもらっては困るでござるなぁ・・・」
「っていうか、ミフユはどこに行ったのでしょう・・・?」
「・・・大事なものを取ってくるといってたでござるが?」
「う~ん・・・こちらが一大事だっていうのに・・・。」
そうこう言っている間にも第一審査は進んでいきます。
そして、
「次は、本命・・・レナの登場だぁああっ!!!!!」
「「「「レナ様ーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」」」」
出てきたのは、白色というシンプルな水着をまとったアイドル。
「おおーっと、今回とてもシンプルな水着で登場だぁ!!でもっ!だからこそこの水着を着こなすのは相当のレベルが必要っ!!!ああっレナ様ーーーー!!!レナ様---------!!!!」
「気になる得点はーーーーーーーっ!!!!」
―ドゥルルルルル!!―
審査員の表示板に満点のマークが並んでいく。
「おおッと、97点っ!!今宵もぶっちぎりだ―――――――ーっ!!!」
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
「2位の点が79点ということを考えても・・・・本当にぶっちぎってますね・・・。」
「相手は伝説の方、そう簡単には倒せないでござるっ。」
「次は異世界からの登場っ!!!メイドエルフッ、ナツカの登場だーーーー!!」
「はわわっ!ここでも私が異世界人のエルフだってバレちゃってますっ!!」
舞台袖から登場するのは一人のエルフ。
恥ずかしさのあまりか、内またで顔を赤らめながらの登場となりました・・・。
左胸からは若干何かの模様なものが水着の端から垣間見れておりました。
「ん?・・・・これは・・・・・」
会場が静まり返ります・・・・
「ありゃ?・・やっぱり・・・私じゃダメですかっ!?」
―瞬間―
「「「「「ブヒ――――――――――――!!!!」」」」」」
これでもかというぐらい沸き立っている会場。
「まさかっ、こんなダークホースが登場してくるとはっ!!!!!」
「レナ様と同じくシンプルな黒の水着ッ!!だが、そこがいいっ!!!つつましやかな胸も、ここでは大きなポイントだぞぉぉぉ!!!!!!!!!」
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
「うう・・・セクハラ・・・・です。」
「気になる得点は――――――ーっ!!」
―ドゥルルルル!―
「93点!!!レナ様と並ぶッとんだダークホースの登場っ!!!!今日は何かが起きるかもしれないぞーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!!!!!」
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
「はわぁーー!!!恥ずかしいですっ!!!!!!!!」
トマトみたいに赤面しながら舞台袖に逃げるエルフ、だが、場内の熱気が冷めることはなかった。
舞台袖では、ヲタクが満面の笑みで迎えました。
「ナツカ殿!!さすがでござるっ!!やはり、拙者の目に狂いはなかった・・・」
「正直・・・帰りたいですぅ・・・・(涙)」
「まだまだっ、これからが本当の戦いですぞっ!!」
第二審査『ダンス』
「ここでは、こちらが用意したミュージックに合わせて、ダンスを披露していただきますっ!!」
「アイドルの基本ですねっ!」
「それではーーーお一人目のアイドルッどうぞっ!!」
一人目のアイドルがステージの上で踊りだします。
「ううっ、今回は3人目です・・・(泣)」
「ナツカ殿、ダンスは・・・・大丈夫でござろうか・・・?」
心配そうに尋ねるヲタク。
「まあ・・・ダンスは・・・何とかなるかと・・・・ちなみにこれは、メイド服でもよいのでしょうか?」
「服装は何でもOKだったと思うでござるが・・・。」
「よかったぁ・・・恥ずかしさのあまり死んでしまうところでした。」
―数分後―
「それでは次はお待ちかねっ!今回のダ―――クホーーーーーーースッッ、!!エルフのナツにゃんの登場だぁっっ!!!!!!!!!」
「「「「ナツにゃん!!!ナツにゃん!!!」」」」
「はわわっ!!愛称がいつの間にかできちゃってるっ!?!?!?」
舞台袖から、
「バッチリさっき、ファンクラブ作っておいたでござる!!」
「余計なことしないで下さいっ!!」
―ガチャン―
暗くなったステージ
そして、当たる一筋のライト。
そこにあるのは、一人のメイド。
―・・・・。―
群衆たちが、かたずを飲んで、その者の持つオーラに魅せられていく・・・・
―そして、―
息をのむ。
そこで繰り広げられているのは、
正確無比のステップ。
― ダンスは淑女のたしなみ ―
緩急のついた振り付け。
― 私も当然ッ ―
切れのある動きと・・・
そして・・・
輝かんばかりの笑顔っ
― 極めておりますっ!!! ―
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!ナツにゃんッ!!!ナツにゃんッ!!!!!!!!!」
割れんばかりの喝采。
「驚きましたっ・・・このメイド、何者だぁあああ――――――――!!!!」
「「「「ナツにゃんッ!!!!ナツにゃんッ!!!!!!!」」」」」
―まだまだっ最後はテクニカルに行きますよぉ――――――――!!!―
繰り出されるのは、人の目をくぎ付けにするブレイクダンスっ!!!
舞台袖には、
「尊い・・・・尊いでござる・・・・」
一人のヲタクが号泣中。
「てりゃっ!!」
最後の決めポーズをとったメイドが再度割れんばかりの喝采に覆われます!!!!!!!
「何だっ!!!このクオリティーの高さはっ!今まで司会を務めてまいりましたが、、、、ここまでのクオリティを見るのは、この人が初めてだぁあああ――――――――――――!!!!!!」
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
「気になる得点は・・・・・・・何だとっ!!!!!!!!!!!!!」
――――――しーん・・・―――――――
「司会を務めて・・・早三百年・・・私は、歴史的瞬間に立ち会いました・・・・」
一拍
「100点っ!!!!!!!!100点満点だーーーーーーーーーーー!!!!!!!!史上初、満点を出すアイドルが現れたぞぉおおおお――――――――!!!!!!!!!!!!」
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!ナツにゃんッ!!ナツにゃんッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「はにゃっ!?満点・・・!?」
「審査員全てが号泣しておりますっ!!かくいう私も・・・涙が・・・涙が止まりませんっ!!!」
舞台袖に引っ込むと・・・・
「拙者号泣で・・・・涙が・・・・涙が・・・・」
未だ号泣しているヲタク一人。その涙は・・・目の前のメイドがすごかったから泣いている・・・そんな単純じゃないように思えました。
今あるこの大きな歓声もそう悲しい気持ちを隠すかのように・・・無理やり盛り上げているような・・・そんな歓声。
「ナツカ殿・・・・本当に・・・勝機が・・・見えてきたで・・・ござるな・・・。」
その表情は・・・複雑でした。
メイドが問います。
「・・・・本当に・・・私が勝って・・・いいんですか?」
「・・・・。」
目を向けた先には、歌姫がダンスを踊っています。
額に汗を流しながら、とてもしんどいはずなのに・・・それでも笑顔で、踊りを踊っていました。
ヲタクの顔に影が差します。
「・・・拙者・・・レナ様には・・・何度も救われてきたのでござるよ。つらい目にあった時も、レナ様の歌を聞けば、頑張れる気がした・・・。」
一拍
「本当は・・・レナ様にずっと歌を歌ってほしいのでござる・・・。」
「でも・・・大好きだからこそ・・・」
―大きな作り物の歓声が上がりますー
―点数版には、96を示していましたー
―メイドが、伝説に王手をかけますー
「拙者は、レナ様の願いを・・・かなえてあげたいのでござるよ。」
―と、その時、―
「あなたが・・・ナツにゃんね?」
振り向いたその先には、
この世界の王に君臨する者、一人。
「レナ様!?」
「・・・・・。」
その人は、笑っていました。
「まさか、私と互角に戦える人がいるなんて・・・夢にも思ってなかった・・・」
だから・・・
「とても楽しい・・・」
その人らしくない、無邪気な笑顔で・・・目の前の伝説が笑っていました。
「最後の勝負・・・・本気の勝負・・・・・・しましょうね?」
審査員の声が響きます。どこか泣き出しそうな声
「最後はっ・・・最後のステージはっ!!!!”歌唱対決”」
泣き出してしまいそうな歓声が、ステージを覆っていきます。
「・・・歌唱・・・対決・・・・でも私・・・持ち歌なんて・・・」
その時、突如三人の目の前に魔法陣が展開されました。
出てきたのは、一匹の悪魔。手には楽譜とノートパソコン(とオーディオインターフェース)が握られています。
「これ・・・曲。」
「ミフユ・・・・これは・・・?」
「ますたーの部屋から楽譜かっぱらってきた。」
「ミフユ・・・それはさすがにまずいんじゃ・・・。」
「大丈夫・・・代わりに・・・・トイレットペーパー・・・置いといた・・・。」
「ああ・・・うん・・・そうですね・・・。」
「ますたーができるなら・・・・ミフユも・・・DTM・・・使える。」
だから・・・
「歌って・・・・ナッツ・・・。」
「ミフユ・・・。」
そして、胸躍らすもの一人。
「楽しくなってきたわね。」
「レナさん・・・」
「全力で楽しみましょっ!」
笑顔でそう言う歌姫に、
「ええ、私の全力!!受け止めてください!!!」
迷いのない笑顔で、メイドのエルフが答えました。
―と、その時―
「次は、今回のダークホースッ!!ナツにゃんの登場だぁアアアアアアアーーーーー!!!」
「「「「「「「「ナツにゃんっ!!!ナツにゃん!!!!!!!!!!!!」」」」」」」
「私が先行のようですねっ」
メイドがステージの上へと駆け上がっていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『summer smile』
歌詞
サビ
輝がやいた 夏の海で
君の 手を取って
歩みたい その隣を
そうっ
いつまでも笑ってたいよ
君のそばで笑ってたいよ
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夏を思わせるポップな曲調・・・
目をつむれば聞こえてきそうな、夏の音。
観衆も誰もが、その音に心をゆだねていく。
あのアイドルと過ごした日々が・・・鮮明に思い出されていく。
あの歌姫が紡いできた軌跡が・・・・蘇っていく。
そして・・・そのアイドルとの最期の時が・・・刻々と流れていく。
「・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
会場は静まり返っていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
そして・・・
「・・・・どうやら、私の・・・負けのようね・・・。」
隣に立っていたのは伝説の歌姫・・・
「そんなっレナさん、まだ歌ってないじゃないですか・・・・。」
フルフルと頭を横に振るアイドル。
どんどん体が透けていきます。
「本来、歌に勝ち負けなんてない・・・でも、私・・・あなたの曲に・・・とても心踊らされた・・・・はじめて・・・こんなにドキドキした・・・」
だから・・・
「これでやっと、私も・・・」
存在さえもが薄れていく・・・・
「やっぱりダメですっ!レナさん、もっと歌っていたいんじゃないんですかっ!?」
歌姫は、その言葉に答えることはなく、
「最後に・・・・こんな素敵な歌が聞けて・・・ほんとによかった・・・」
穏やかに笑う彼女は・・・風に溶けていき・・・そして・・・
笑顔に彩られた歌姫が・・・この世から・・・消えた。
会場に、その精霊の姿はなく・・・・
会場は・・・・静かに・・・そして・・・涙がこぼれていく。
(・・・みんな・・・気づいてたんだろうな・・・)
もうその歌姫が・・・・・・
でも・・・いや・・・だからこそ・・・
あれだけの歓声を・・・あげ続けていたのかもしれない・・・。
命を振り絞って歌う歌姫を輝かせるために・・・
あんなに叫んでいた司会二人でさえ、
本当に悲しそうに・・・こらえようとして、それでもこらえきれず涙を流していた・・・。
そう・・・
このステージを作っていたのは、あの姫一人ではなかったのだ。
「・・・レナ様・・・ついに・・・。」
その様子を見ていたヲタクは、全てを悟ったように・・・そうつぶやいた・・・。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
―次の日―
一人のメイドと悪魔のサキュバスは元いた世界に戻ってきていました。
メイドが経営している”夏霙”で二人、黄昏を味わっておりました。
「レナさん・・・・いなくなってしまいましたね・・・。」
「・・・・。」
どれだけ探しても、あの輝くようなアイドルはもうこの世にいません・・・。
と、その時、
―カランっ―
「いらっしゃいませー。・・・・って、はにゃ!?」
店に顔を出したのは、一匹の精霊。
不敵に笑うと、
「成仏しようかと思ったけど、やっぱりやめたわっ!!」
「なんで!?」
「だって・・・」
メイドをじっと見つめる伝説のアイドル
「私、この手で私を超える最強のアイドル、育ててみたくなったんだもんっ!!」
その言葉を聞いたメイドは、
「私の本職は、メイドです―――――ッ!!!」
今尾三。 な”蛾メ @fujikuranagame
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